旅先で入ったバーで働く彼に一目惚れをした。一目惚れで誰かを好きになるなんて絶対に有り得ないと思っていた私が一瞬で恋をした。それから500キロの距離を越えて毎月のように逢いに行ったけど、所詮はカウンター越し。私に向けてくれる笑顔も客だからだし、恋人になりたいと願うどころか告白さえするつもりもなかった。彼に逢えるだけで幸せだった。でも逢う度に私の気持ちは溢れ、1度だけ彼の前で泣いてしまった。告白する気はなかったけど、私の想いに気付いてた彼に私は振られてしまった…「自分には好きな人がいるんだ」って。答えを求めていなかった私は、振られた事そのものよりも答えを出されてしまった事が悲しかった。もうこの店に飲みに来ちゃ駄目なのかな…って。でも毎月のように交通費や宿泊費、安くない飲み代を捻出するのは、貧乏OLだった私にはラクな事ではなく、彼は彼なりに、そういった事も考えてくれたようで、告白もしていないのに振ってくれたのは彼なりの優しさだった。その後、お店に通うのを止め、忘れる努力をした。他の人と付き合ったりもした。でも彼を忘れる事は出来ず、心の奥で密かに想いを募らせていた。いつしか彼の働く店もなくなり、もう逢う事もないと思っていた時、彼が連絡をくれた。「新しい店を出すんだ」と言う事務的な事だったけど嬉しかった。運良く彼のアドレスを聞く事も出来た。でも私の心はまだ彼を忘れてはなく、また逢いに行ってしまったら同じ繰り返しだと思うと、逢いに行く事は出来なかった。でも人間として本当に尊敬出来る彼だったから、どんな距離でも構わないから繋がりを持ちたいと思い、年に1度だけ彼の誕生日にメールを送った。他愛のない話とオメデトウの言葉、それだけのメールを8年続けた。その間に彼も私も出逢いや別れを経験し、いつしかそんな身の上話もするようになっていた。恋人になれなくても、私は満足だった。1度振られて恋愛対象とは見て貰えてなくても、こうして話が出来る。カウンター越しではなく友人として話をしてくれる、それだけで満足。この関係がこの先20年も30年も続いてくれればイイ…そう思っていた。そして8年目の彼の誕生日、いつものようにメールを送った。でもこの年、彼から届いた返事は「もっと近くで俺を見ていてくれないか」…信じられなかった。思い続けていた事が彼を動かした。忘れようとしなくて本当に良かった。無理やりにでも封印していた心を解放し、もうすぐ私、彼と結婚します。