ほどなくして後藤から連絡があった。広報誌の原稿の校正依頼だった。記事はハルカが主にインタビューを受ける形でグループ結成のいきさつや普段の活動や将来の展望等が語られてた。その記事の中で、アイドルをやって良かったと思うことの問い掛けにハルカは、あの土砂降りのイベントで主催の地元企業の方々に感謝されたエピソードを語っていた。俺はその文章と文章の横に貼りついたインタビューに微笑んで受け応えするハルカの画像を見て心が温かくなるのを感じた。俺は文章、内容について確認し問題無いと後藤に返信した。その際にCCの形でオレンジ娘メンバーのそれぞれのメールアドレスがある事に気がついた。俺はビジネスライクな校正済みを伝える文章にメンバー達に改めて土砂降りイベントの感謝と先日のライブの感動を伝える文章を付け足してメールを一斉返信した。その日、会社から帰宅する道すがら妻から頼まれた眼薬を駅前のドラッグストアで買っていた時に俺のスマホがメール着信を伝えた。レジで支払いを済ませて店を出たところでスマホを確認するとハルカからのメールだった。校正への謝礼と広報誌が出来たら何部か送りますという内容だった。続けて俺が後藤に打診した夏の花火イベントへの意気込みが書かれていた。ライブの際に彼女達は松田聖子の赤いスイトピーを歌った。俺がとても良かったと書いたことへの返事として、次のイベントでも松田聖子の曲を歌うので聖子ファンだった梶谷さんのお勧めの聖子さんの曲を教えてくださいと書いてあった。まぁ彼女なりに気を使った社交辞令的なものだろうと分かってはいたが何となく心が弾んだ。帰宅すると妻に眼薬を渡し、妻と夕食をとった。仕事で絡んだ地元アイドルから聖子ファンの俺にお勧めの曲を聞かれた等と妻に話し、同じ歳の妻と松田聖子の曲や往年のアイドルの話で久しぶりに妻と談笑した。俺は風呂から上がると就寝までベッドでスマホで松田聖子の動画を検索しと若い頃夢中で聞いていた数々の曲を思い出して口ずさんだ。翌朝、出勤の道すがらに大ヒットした松田聖子の夏の曲とアルバム曲だがファンには最高傑作と言われている曲をハルカに返信した。ハルカから昼過ぎに返信が来た。アルバム曲は知らなかったと云う。早速YouTubeに上がっていた動画を検索して見て、とても気に入ったという事が書いてあった。その後、彼女からメールが時々来るようになった。彼女は昭和のアイドルや歌手について知りたがり、自分がその歌手のお勧め曲を返信すると彼女がそれを見て感想を言うみたいなやり取りが交わされた。彼女は今流行っている歌よりも昭和の歌の方が好きだと言っていた。自分が褒められたワケでも無いのに俺はとても嬉しかった。会社や会合の呑み会の2次会でスナックやカラオケボックスでハルカが特に絶賛した何曲かの昭和女性アイドルの曲をオジサンが歌うようになり周りに苦笑される様になった。ハルカとのやり取りは昭和アイドルから洋楽にまで及び、特に俺が高校生あたりでハマったアメリカのハードロックバンドはハルカも非常にハマって、そのバンドの話では1日に何度もメールのやり取りをした事もあった。そんなやり取りをし始めた時に解散したそのバンドのドラムがジャズのトリオとして東京のちょっと高級なジャズライブバーに出演するニュースが流れた。食事をしてからのジャズライブは8時から。東京までは電車で2時間ちょっと。最終で帰って来られるか来られないか。ライブの状況では無理になる。勿論、帰りの心配をしながらライブを聴くなんて論外だ。うちみたいな地方都市にはハナから来ないだろうがせめてもう少し早い時間に開演してくれたらハルカを誘ってみたかった。泊まりもあり得る時間帯のライブに女性を誘えば、それはそれ以外の意味も帯びてしまう。あれからかなり聴き込んでいるハルカとそのバンドのドラムを聴きに行く事はとても楽しい事に思えたが彼女の歳や立場、その前に俺はくたびれた既婚男性。無意味な想像をしても虚しいだけだと俺は自嘲していたが、意外な事にハルカからライブの誘いが来た。梶谷さん、ドラム来ますね!しかも東京のあのジャズクラブ。一度は行ってみたいけど大人じゃないと入れないですよね。梶谷さん、もし行くなら一緒にウチを連れて行ってくれませんか?俺は勿論です!喜んで。早速チケット手配するね。でも帰りが心配です。電車無いかも。と返信するとハルカは梶谷さん信頼してるから大丈夫デスw。行けば何とかなるでしょwと
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