2016/04/09 16:56:10
(6CRdUV06)
彼のマッサージをうけて変な気分になって数日。
いつもと変わらない関係でいつも通りの仕事をこなす。
ボーナスを払う余裕なんてないけど、それでも頑張ってくれてる彼に、給料とは別に何かしらのお礼はしたい。
時期的にもクリスマスでちょうどいい。
何か欲しい物は無いか聞いてみた。
「美味しいケーキとお酒を二人で一緒に」
遠慮してるのか物欲がないのか、簡単過ぎる要求に好感度が増していく。
24日の夜は彼女との先約があったから、25日の仕事が終った後、二人でケーキを食べながら飲む約束をした。
26日は土曜日で休みだったし、次の日を気にせず飲めるのはいい。
今になって思えば、美味いケーキ屋を調べてみたり彼の好きそうな酒を探したり、彼女と過ごす24日の事よりも気合いを入れて段取りしていた様に思う。
そしてクリスマス。
その日の作業を終えてリビングでケーキと酒を開ける。
男二人のクリスマスパーティーを始めた。
日付が変わった頃、だいぶ酔いがまわってきた。
そこまで酒に強くない彼も、いつもより多目に飲んだせいで顔は真っ赤だし、目も殆んど開いていない。
それでも俺に付き合おうとする姿が、逆に気を使わせてる様で申し訳なく思い、シャワーを言い訳に席を離れた。
「ダメですよ…朝まで僕と飲むんでしょ?」
酒乱かもしれない。
そんな事を思いながら、絡んでくる彼を適当に流してシャワーを浴びに風呂場へ。
シャワーを終えてリビングへ戻ると、案の定リビングで寝てる彼。
起こしても起きない。
仕方なく彼を抱き抱えて寝室へ移動する。
この時点ではまだ何の下心もない。
風邪をひかれると困ると言うシンプルな理由から、俺のベットに乗せて布団を掛けて寝室を出た。
リビングに戻って一人で飲み直した後、そのままリビングのソファーで寝た。
どれくらい寝たかは覚えていないけど、外はまだ暗かったと思う。
顔の側に人の気配を感じて頭が目覚め始めた。
飲み過ぎたせいで体を起こす事も目を開ける事もしたくない。
ただ、体の感覚だけは鮮明になってくる。
寝る前は掛布団なんて無かったはずなのに、体に掛布団が掛かっている感覚。
そして唇に伝わるプニプニとした柔らかい感触。
彼女が来てるんだろう。
相手するのも疲れるし、そのままにして寝ようと考えた。
少しずつ頭が回り始めた。
まだ日の光を感じない。
こんな時間に彼女がくるなんて有り得ないし、彼に掛けたはずの掛布団を剥ぎ取って俺に掛け直す程、非常識な彼女じゃない。
冷静に考える程、頭が混乱してきた。
そしてある程度の覚悟を決めて目を少しだけ開けてみた。
数時間前に俺のベットに寝かせたはずの顔が目の前にある。
目の前にあるなんてレベルじゃなく、唇と唇がくっついてる。
覚悟を決めたはずなのに、あまりの衝撃の大きさに次に取るべき行動を見失った。
そのくせに、やたら胸が締め付けられる。
目の前に居るのは男だと言い聞かせても、その色っぽい顔に理解が追い付かない。
「っ!」
俺が目覚めてる事に気付いた彼が、ビックリした顔で目を見開いた。
近距離で目が合ったまま固まる二人。
実際の時間では一瞬の事だったんだろうと思う。
感覚的には数秒間固まった後、慌て顔を離す彼。
「気持ち悪いですよね?引きますよね?ごめんなさい」
「大丈夫だから落ち着け」
完全にパニック状態の彼を落ち着かせようと言葉を掛けながら、その言葉を自分にも向けて言い放った。
前例の無い事態に俺が一番混乱てた。
その場をどう処理するのが正しいのかも、なんて声を掛けるべきなのかも、いくら考えても出てこない。
それと同時に、一瞬でもときめいた自分の気持ちすら未処理のまま放置した状態だった。
下手に対処すると彼を傷付けるだけじゃなく、せっかく手にしたたった一人の出来る可愛い従業員を失う事にもなる。
今にも泣きそうと言うより、目に涙を溜めた状態で謝り続ける彼。
その姿に愛しさを感じながら興奮すら覚え始める自分。
とりあえず抱き締めよう。
その結論に至った理由は自分でもよくわからない。
抱き締めれば彼は落ち着くかもしれないと思ったのかもしれないし、自分の中に芽生えたモヤモヤした興奮を勢いに任せて解消しようと考えたのかもしれない。
何れにしろ、ソファーの脇にへたりこんで泣きそうな彼を力任せに引寄せて抱き締めてみた。
逆効果だった。
俺の中のモヤモヤした興奮は更に膨れ上がったし、彼は完全に泣き出した。
勢いに任せて抱き締めてはみたけど、次の行動が思い付かない。
「大丈夫だから泣かなくていい」
同じ言葉を繰り返しながら、彼が泣き止むまで頭を撫でてるだけで精一杯だった。
頭を撫でる度にいい匂いがしてくる。
彼の気持ちは落ち着いていってるのか、少しずつ泣き止んでいく。
それに比例して俺の中のモヤモヤがどんどん大きくなっていく。
「お前、男が好きなの?」
適切な質問じゃないかもしれないけど、何か話さないといけないと思って、色々と質問責めにしてしまった。
男とか女とか関係なく相手を好きになってしまうらしく、その比率は男の方が多いらしい。
女に生まれてたら好きになった人と苦労しないから女に生まれたかったけど、自分は男だと自覚してるし女になりたいとは思わないから、MTFではないと思うとの事。
そんな理由からかどうかはわからないけど、高校の時に一度だけ付き合った彼女と別れて以来、彼女も彼氏も出来た事がないらしい。
更に、男女どちらともセックスはおろかフェラの経験すら無いらしい。
メチャクチャ綺麗じゃないか。
そんな子に対して一瞬でもよからぬ事を考えた自分が忌々しい。
ただ理解できない。
そんな彼が何故、俺なんかの寝込みを襲う様な真似をしたんだろう。
何の意図も無く、単純に質問を続けた。
「好きだからです」
なんとなく期待してたと言うよりも、誘導したと言ったが正しいかもしれない。
出来すぎた展開に言葉に詰まる。
恥ずかしそうにしてる姿に、女に告白される以上に興奮した。
「引きますよね?ごめんなさい」
「引かないし嬉しいけど俺には彼女居るよ」
俺に出来る精一杯の返事がこれだった。
まだ完全に目覚めたわけじゃない、この時の俺には男と付き合うなんて実感がわかなかった。
「どうこうなりたいんじゃないんです」
「へ?」
先走った自分の答えが恥ずかしかった。
予想外の返しにマヌケな声が出た。
どうこうなりたいわけじゃないけど、頑張った時はたに、こうやって抱き締めて欲しいと照れながら言われて、俺は恋におちた気がする。
純粋過ぎて泣けてくる。
モヤモヤと興奮した俺を殴って欲しいとさえ思った。
そう思いながら、綺麗な物ほど自分の手で汚したくなる。
それに、たまに抱き締めるだけじゃ俺の方がもたない。
とりあえず、自分の意思を確認するために、今度は俺からキスをした。
キスをしたら自分の中のリミッターが外れた。
勢いに任せて舌を入れる。
なれてないせいか、一瞬戸惑った様に口を開けてるだけだった彼の舌が、少しずつ絡んでくる。
半端なく興奮してる自分が怖くなって口を離した。
「引いてないだろ?」
始めが肝心だけだったりする。
興奮を悟られない様に精一杯強がってカッコつけた。
続きはまた。