小学生の頃、僕の学校には合唱団があって、高学年の女の子たちが
大勢入っていた。その中の1人に、ゆう君という僕の友達がいた。
女の子の中のたった1人の男の子団員だった。
スポーツが苦手で歌やピアノが得意な子だった。小柄で、髪の毛も長めで、
知らない人からは良く女の子に間違えられていた。僕とは家が近くで、
すごく仲良しだった。合唱団の練習は朝と放課後あったので、
学校で一緒にいられるのは2時間目のあとの休み時間だけだった。
その時には、歌った歌のこととか、男子1人だけだけど、
女子がやさしくしてくれる、とか、今度1曲だけ伴奏をすることになったとか、
本当にいろいろな話をしてくれた。登下校の時はいつも一緒だった。
ある日の放課後、合唱団の服装の話になった。僕の学校の合唱団には、
白いブラウスに赤いリボンネクタイ、紺色のスカートのステージ衣装があった。
市内の小学校の合唱団では、ステージ衣装がある小学校は、他にはなかったらしい。
「本番は、女子と同じ格好をするの?」と僕がゆうに聞くと、
「うん、そうだよ…。おんなじ格好するよ。
『皆でステージに立つんだから、他の子と同じ格好をしなさい』って、
先生もそう言ってた…」
「それなら、スカートをはいて歌うんだね」
「うん…」
「恥ずかしくないの?」
「少しはね…、でも、そういうの覚悟で合唱団に入ったから、気にしてないよ」
今なら絶対にあり得ないが、当時は、そういう『みんな同じ」という考えが
結構あって、子供も親も、先生が言うことは絶対…という風潮が強かった
そんな時代だった。
その日は遊ぶ約束をしていたので、家にカバンを置いてからゆうの家に行くと、
ゆうが、白いブラウスにカーディガン、ハイソックス、
紺色のサスペンダー付きのチェックのプリーツスカートという格好で、
姿を見せた。ゆうの母親がそばにいて
「どう?ひろ君、似合ってる?」と、僕に聞いた。
お世辞ではなく、すごくかわいかった。そう思ったままを伝えると、
ゆうは母親と顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。そして、
「ありがとう、本番ではスカートをはくから、ママが『お家でも
スカートをはいて練習しなさい』」って…」と言った。
「ゆう、スカートはいていると、どんな感じ?」と聞くと、
「すごくスースーしていい気持ちだよ、はいたばかりは恥ずかしかったけど、
今はもう、慣れてきたよ」と言っていた。
「ゆうちゃん、しばらくの間、その格好でいる?」と母親が聞くとゆうは、
「うん…」と頷いた。
「ひろ君、僕のお部屋で遊ぼう、さあ、上がって…」…ゆうが言った。すると、
「ゆうちゃん、スカートをはいているのに僕って言うのはおかしいわよ」と、
母親が笑った。
「あ、そっか、そうだよね…私のお部屋で遊ぼう」…僕は、ゆうと手をつないで
階段を上がっていった。