ゆうの部屋に入った。僕たちは、つないでいた手を離し、並んでベッドに腰を掛けた。今日は何か、いつもとは空気が違う感じがした。いつも見慣れているゆうの部屋は、いつものように、きちんと整理整頓がされ、まるで女の子の部屋みたいだと、当時はいつも思っていた。でも、この日は、ゆうは女の子の格好だったので、その部屋の雰囲気が、ゆうの今の格好と、違和感なく見事に溶け合っているような印象を受けていた。「それにしても、しっかり女の子の格好にしたんだな…」僕はそう言いながら、隣に座っているゆうのスカートを、おもむろにめくった。一方では、今はゆうはこんな格好をしてはいるが、親友の僕にだけ、私服の上からただ着て見せたかっただけなんだと思っていた。スカートをめくり上げたその視線の先に、下着のスリップと、女の子用の純白の無地のパンツが飛び込んできた。「あん…嫌ん…ひろ君、恥ずかしいよ、今、スカートの下は下着なんだから」ゆうが、顔を真っ赤にしながら言った。ゆうは、ここまで本格的なんだ、ここまで本気なんだ、僕はそう思った。「ご、ごめん…」僕は、ゆうがここまでするとは全然思ってなくて、女子の洋服に興味がある男子が、ちょっとだけ着てみる…そんな感じかと思っていた。「ゆう、下着まで全部、女の子と同じにしたんだね…」そう言うと、ゆうはこっくりと頷いた。「そうだよ…せっかく女の子のお洋服を着るんだから、全部女の子にしなかったら、 意味がないでしょ」そう言いながら、ゆうは自分で自分のスカートをめくって、中を見せながら、にっこりと笑った。女の子の洋服や下着は、母親が買ってくれたらしい。「それでね、この衣装を、コンクールの本番に着るんだよ…」ゆうが、カーディガンを脱いで、僕の前に立つと、自分の着ている白いブラウスと、紺色のプリーツスカートを示しながら言った。「そうなんだね、かわいい格好だね…本番には、みんなで見に行くね」「うん、入賞できるように頑張るから、応援してね」僕は今は、そんなゆうをクラスの女の子の、誰よりもかわいいとさえ思っていた。その時、ゆうの母親が入ってきた。「ゆうちゃん、ステージ衣装、そろそろ着替えましょうか。 スカート丈とかサスペンダーの長さとか、大丈夫? 動きにくいところとかはない?」「うん、大丈夫だよ、ママ…」「さあ、今度は、スカートとブラウスとスリップ、自分で脱いでみて。 しわにならないように、このハンガーにかけるのよ」「うん、わかった」「着替え、ここでいいわよね、ひろ君なら見られても恥ずかしくないわよね」「うん、大丈夫…」ゆうが、座っていたベッドから立ち上がった、スカートやブラウス、スリップをさっと脱いで、手早くハンガーにかけるゆう。たちまち、パンツ1枚に姿になったゆうの姿が、なぜかすごくまぶしく思えて、見てはいけないものを見ているような、そんな気持ちもしてきた。「ママ、パンツも脱ぐんだよね」そのゆうの言葉を聞き、すごくどきっとする僕。同じ男なのに、どうしてだろう…。「ゆうちゃん、着替えはおズボンにする?スカートにする?」母親が言う。「それによって、パンツもはきかえましょうか…」僕は、ゆうがどんな答えをするか、ドキドキしていた。ゆうは、「ママ、スカートはきたい…この間買ってもらったワンピース、あるでしょ」「いいわよ、今日は少し暑いから、ワンピース、いい気持ちよ。 でも、もうすぐ夕方だから、涼しくなるかもしれないから、キャミソール、 中に着ましょうか…」「うん…ママ、お髪、解いてもいいでしょ」「いいわよ…」まるで、1人の女の子が母親と会話をするような、そんな感じに思える僕だった。男子ではクラスで一番大人しく、言葉遣いも女の子っぽいところがあるゆう、それはもう、幼い頃からの話ですっかり慣れっこだが、今日は何だか、本物の女の子が目の前にいるような、特別な気分がしていた。ステージ衣装とスリップがかかったハンガーを受け取ると、母親は下に降りて行き、部屋にはまた、僕とゆうの2人だけとなった。数分間の沈黙が漂った。「ひろ君、どうかしら…」その声の方を見ると、クリーム色の花柄のワンピースを着た1人の女の子が、目の前にかわいらしい微笑みを浮かべながら立っていた。
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