滑川さんは、その後も沢木との情事を、笑いながら話してくれた。それはそれは大変濃厚な話で、目の前にいるこの子がそんなことまで、と思うと、酔いも手伝ってか嫌でも興奮してきた。私はその話を聞いているうちに、図らずとも勃起してしまった。それを気づかれないようにさりげなくポジションを直していたら、「えいっ! 」と、いきなり滑川さんが私の股間をタッチしてきた。「ひゃっ! な、な・・・」狼狽えてしまった私は、彼女に、「あー! 池田くん、あたしのこと想像して勃起してるぅ」と小悪魔顔で笑われた。「な、なんだよ。いきなり・・・。そ、そりゃ、こんな話を聞かされたら、お、男なら誰だって・・・」「あはは。いいよいいよ。あたしそういうの気にしないし。むしろ好きかも」そういいながら彼女は小首を傾げた。元々、私は滑川さんをそういう目で見てはいなかった。どちらかというと派手めな感じより大人しめの方が好みだったからだ。昔の滑川さんだったらもっと発展したかも知れなかったが。だからという訳ではないのだが、下心がなかったという前提で、彼女にどうしても確認したかったことを勇気を出して聞いてみた。「あ、あのさ・・・」「ん、なぁに」私は恥ずかしくて口ごもっていたが、ぶっちゃけ私の性器と沢木のものと、大きさにどれくらいの違いがあるか聞いてみた。滑川さんは、まさか私からそんな話を降られると思っていなかったのか驚いた表情を見せたが、じゃあ、脱いでみてよ、と言ってきたので、触った感じでいいからさ、と披露は断固拒否したままお願いしてみた。彼女は考える間もなく、「全然ちがうよ」と答えた。「んーとね、分かりやすく言うと・・・、針金と鉄パイプ? くらい」分かりやすいのかは知らんが、そんな差ってあるか?「もはや用途が違うし」私は更に恥ずかしくなり、苦笑しながら言った。ホントだぁ、と笑った彼女だったが、「でもね、池田くんのは普通だとおもうよ。あ、見ていないから確信じゃないけど。公平くんのが異常なんだよね」と、慰めでもなく真剣な感じで言った。「だから、彼と別れてからは大変なのよ」滑川さんは自分のおしぼりでテーブルの滴を拭きながら言った。何が? と聞くほど私は疎くなかったので、黙っていた。「あたしの今の彼氏はね・・・、黒人の元ポルノ男優よ。あ、日本じゃなくて向こうでね。大きさはいいんだけど、テクがねぇ。巧いんだけど何か物足りなくて・・・」黒人のポルノ男優!?そんな奴と比べても尚、沢木は上回るのか。別に、だからといって男として劣っているとは思えないが、あまりにも自分にないものだらけの沢木の話しに、私は暫く考え込んでしまった。「あ、でも普通サイズも好きなんだよ。・・・て、あはは、あたし何言ってんだろ。酔っちったかな」確かに何だか変な展開になってきていた。さっきまで下心がない、なんていっていたのに、もうどこ吹く風だった。私は私で、昨日の晩母にしてしまった行為を引きずっていたし、彼女は彼女で、抱かれるはずだった彼氏にドタキャンされ、元彼の沢木との情事を話しているうちにおかしくなってきたのだろう。この時、おそらくどちらかが相手の手を握ったら、そういう関係に陥っていただろうが、それはなかった。「い、いや実はさ」暫しの沈黙を破って、私は母と沢木のことを話した。本当は話す気などまるでなかったのだが、この状況に耐えられず笑い話にでもなればいいと思ってのことだった。「もう、いくら公平くんでもオバサンになんか手を出さないよ」、という風になると思いきや、滑川さんは真剣に聞い
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「公平くんてあんまし年増に興味がないんだけど、これだけ綺麗な人なら・・・、あるわ」聞きたくないことだった。わざと考えないようにしていたことだった。そんなことを聞きたくて、滑川さんに話した訳ではなかった。彼女が発した言葉に憤りすら覚えた。「は? 何言ってるの。そんなことある訳ないじゃん。何でそんな断定的に言えるんだよ」私がそういうと彼女は、「怒らないでよ。そう思ったから言っただけなのに。別に断定的とかじゃないけど・・・、多分って言ったじゃない!? 」と、少し困惑しながら言った。「あのな、相手は俺の母親だぞ」「池田くんからみたらそうだけど、公平くんからみたらただの綺麗な女性だよ」「あ、あいつからみたって同級生の母ちゃんだ。年だって、は、離れているし、それに・・・。普通、同級生の母ちゃんと何かしようと思うかよ。じ、常識的にさぁ・・・」言葉が上手く出てこなかった。滑川さんに反論したところで何も変わる訳じゃないのに、必死で彼女に食って掛かった。「それは、公平くんには関係ない話だと思うよ。彼って多分・・・、サイコパスなんだと思う」・・・なんだ、それ。私は、訳が判らなくなってきた。さっきから大声で話していたので喉が痛かった。目の前には、届いてから一度も口をつけていない生レモン酎ハイの氷が完全に溶けていた。「・・・ごめん。意味がまったくわからん」私は、いつの間にか前のめりになっていたことに気付き、背もたれに寄りかかった。「つまりね、公平くんて社会の捕食者なんだって」滑川さんがいうには、サイコパスは病気ではなく人格障害なのだと。人に対して冷淡で、良心というのがなく、罪悪感もない。ただ、理屈としては事の善し悪しは区別がつくのだが・・・、ということらしい。猟奇殺人者とかに多いのだというが、あれはブラックで、沢木はホワイトサイコパスなのだと。「ホワイト? 」「政治家とかにいたりするんだって。頭が良くて、人気があって、常に人の中心にいて、饒舌で・・・、でも嘘つきで。そのことに罪悪感を覚えないから成り立つ商売だってテレビで言ってたわ。なんかそう言われると政治家ってみんなそう思えてくるよねー」政治談義なんてするつもりはなかったので、そんなことはどうでもよかった。「ちょっとまって」俺は話題をそらすまいと、滑川さんに疑問をぶつけた。じゃあ、なにか。うちの母ちゃんはそのサイコパスで黒人男優以上の性の申し子のような奴の口車にのってしまい、男女の関係になってしまった、ということかと聞くと、それは違う、と否定された。「あたしが言っているのは、友達のママさんとセックスしても道徳的に何とも思わず、罪悪感もないというところまでで、セックスは池田くんのママさんの自己判断だと思うよ」「・・・だって、沢木は饒舌で嘘つきだから俺の母親をたらしこんだんだろ? 」「セックスに嘘はないわ。レイプされたのなら別だけど、あとは全て合意よ」「ま、まさか・・・。滑川さんは俺の母さんをよく知らないからそんなこと言ってるんだよ。母さんなんて、あれだよ!?・・・」私は、いかに母が『肝っ玉母さん』かを説いた。滑川さんは黙って聞いていた。まだ話の途中だったが、彼女が私を制
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「だって、考えてみなよ。携帯を持たなかった人が、夜な夜なメールをして、香水をつけない人が付けて、服装も気にしだし、時間きっちり人間がルーズになり、あげ句には、家族の輪を築いてきた食卓事情も変わったんでしょ。お惣菜とかが増えてさ」
滑川さんは一気に話すと、さっき頼んだ芋焼酎のボトルから、ドボドボと自分のコップに半分くらい注ぐと、一息に飲み干した。
「誰が聞いたって、クロでしょ」
ふう、と私から目を逸らして言った。物分かりの悪い奴に言うかのように。
「そんなことない。絶対ない! 違うんだって。うちの母さんは、違うんだよ」
滑川さんは、必死に母のことを話す私を黙って見ていた。嘲るでもなく非難するでもなく。
「まじめで、家族思いで、そりゃ口は少し悪いし、何かっていうと手が出るけど、料理や掃除、洗濯なんて完璧にこなして、オヤジの帰りを待ち、俺の心配をしてくれて・・・。だから、そんな。母さんが他の・・・ましてや、息子の・・・。違うよ・・・。絶対に、違うよ・・・」
だんだんと声が小さくなっていった。どんどん自信が揺らいでいった。
「池田君てさ。ママさんのこと、よく知らないんだね。あなたはさっきから『お母さん』ていう一面のことしか言っていないじゃない。今言ったことって、お母さん業だよ、全部」
滑川さんの言葉に、私は、ハッとした。
彼女は続けた。
「ママさんだって、女性だよ、人間だよ。池田君があたしと公平君との話に勃起したように、同じことを、ママさんにしたら、女性として何らかの体や心の変化はあると思うよ。あそこが濡れるかもしれないし、興奮するかもしれないし、抱かれたいって思うかもしれないし。そんなのはさ、当り前じゃない!? そりゃ、母かもしれないし、妻かもしれないけど・・・、女だもん」
「知ってるよ、そんなこと。言われなくたってさ! 息子としてじゃなく、人として! 」
何も知らないことを責められているような気がして、大きな声を出してしまった。
彼女は冷静に聞いてきた。
「じゃあ、ママさんって虫歯が何本ある? 好きな下着の色は? 初体験の相手と場所は? 座右の銘は?コンプレックスは? トラウマは? お父さんと最後にセックスしたのはいつでそれはどうだったの? 」
滑川さんは決して責めている口調ではなかった。まるで家庭教師先の生徒に分かるまで懇切丁寧に教えるように穏やかに、しかしはっきりと凛とした態度で言ってくれた。
「・・・そんなこと、知るわけないよ。そんなこと知っているからってどうなるというんだよ」
「多分、公平君は知っているよ。
全部かどうかは別としても。彼ならそのくらい聞いているし、見ているし、感じている。他の状況から推測していることもあるだろうし。
人間として、女としての池田ママさんと接していると思うよ。それはママさんにも絶対伝わっている。だから、身も心も許す存在になっているはず」
言葉が出なかった。
母をよく知っているようにしている自分が、実は一番知らないのかもしれないと思ったと瞬間に、体中の力が抜けた。