「従順なマゾのおばさんも好きだけど、やっぱりおばさんはこうじゃないとね。この気の強さ・・・。好きだなあ」横を向いている母の顔を撫でながら沢木が言った。母も怒り顔のまま沢木の方を向いた。二人とも、暫く無言で見つめ合っていた。ものの一分くらいだっただろうが、私には長く感じられた。もうすぐ父が起きるかも知れない。沢木は、一体どういう風にこの場の決着をつけるつもりなのだろうか。母は・・・、どうしても沢木に入れられたいのだろう。母の泣きそうな顔・・・。欲しくて欲しくてたまらないという感じ。反対に沢木はニヤニヤ顔。入れてもいいし入れなくてもいい。余裕なのか、はたまた別の思惑があるのか、表情からは伺えなかった。端から見ても、温度差が感じられる二人の距離感。沈黙を打ち破ったのは、やっぱり沢木だった。「おばさんを最初に見た時さ、年の割に・・・、はは失敬失敬、綺麗な人でビックリしたよ。つーか本当のこと言うと『ただそれだけ』だったんだけどね」脈絡の無い話を、沢木は急に切り出してきた。母の右眉がピクリと上がった。苛立ちも限界に近いのだろうが、それでも下唇を噛んで、黙って沢木の話に耳を傾けていた。「牛丼屋で最初におばさんを見たときにさ、何かこうビビっと来るものがあったんだよね。テキパキと愛想が良くて元気で。汗をかいているんだけど、清潔感があって。それに何と言っても綺麗で。はは、あなたは多分幼い頃から言われ慣れているんだと思うけど、本当に美人だよ、冗談抜きで。俺が今まで見てきた女性の中でも相当上位にランクインするよ。はは、どうでもいいって? まあ、そんな顔しないでさ、もう少し聞いてよ」母は沢木の『お喋り』に付き合いたくないのか、イライラオーラを全身に出していた。「大学で話しているときに、あなたが池田君のお母さんって知ってさ。ああ、知ってるって? まあまあ。いや、はじめ言われても直ぐに判らなかったよ。だって彼と全然似ていないもんね。いやいや、彼も悪くないよ。不細工とかじゃない。そういうことじゃなくて・・・、違いすぎるよ、顔立ちがさ。だから判らなかった。でも、あなたの旦那さんを見て納得した。似てるねー。彼と旦那さん。そっくり。だから、初めて池田君のお宅へお邪魔した時はさ、正直あなたをどうにかしようと思ってきたよ。はは、それも知ってるって? 私もどうにかされたいと思ってましたって? 」母が本気じゃないけど強めのグーで沢木の肩を叩いた。痛てて・・・。あはは、ゴメンゴメン、そうじゃないか、と沢木も軽く受け止めていた。「だってさ、似ていないから絶対本当の親子じゃないと思っていたよ。それにさ、俺がだよ、最初大学で『昨日、駅前の牛丼屋に行ったら、めっちゃくちゃ綺麗な人妻みたいな店員がいてさ。年増なんか普段相手にしないけど、あれだったら一回してみてもいいかなって思うんだよね』って言ったときにね、誰だったかが、『あ、それ池田の母ちゃんじゃね』的なこと教えてくれてさ。そんで『じゃあ、池田っちん家に行くしかねえべ』みたいなムードになって、池田君も『別に。来たけりゃ来れば』って言ってくれたからさ。ああこれは本当の母親じゃないな、と。継母とかで、普段イジメられたりしているから、俺たちに成敗して貰いたいんだなあって思ったのよ。若い男に一発やられてしまった方がちょっとは大人しくなるんじゃないかって。これはもう、彼からのエスオーエスの合図だってね。誰が考えたってそうでしょ? 」沢木独自の論理展開はアホらしくて聞いていられなかった。本当にあの時こんな風に思っていたのなら・・・、こいつ大馬鹿だ。どういう生き方をしてきたら、こんな風に物事を捉える様になるのだろうか。母がまたチラリと時間を確認し、我慢できずに沢木に抱きついた。沢木は母を抱擁すると、顔をあげさせ唇を軽く合わせた。母の唇はソフトよりハードを求めていた。ジュパ、ジュポっという音がした。「んぱ・・・、おばさん、待って待って。もう少しだけ付き合ってよ。そんでね、えっと・・・どこまで話したっけ・・・。そうそう、そんで池田君の家に来た。あなたに会った。あなたの手料理を食べた。酒を飲んだ・・・、ここだよ。てっきり俺はこの酒を飲んでいる時に、みんなが気を使って
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