沢木は私のことを再び押入れに戻し、数センチの隙間を残すように襖を閉めた。沢木がこれから起こす行動によっては、幸せだった我が家が崩壊する・・・。この歪みは二度と塞がることはなく、それぞれの絆を断ち切ってしまうのだろう。母も焦っていたと思う。予期せぬ物音。それもドアでなく襖が開く音。誰かがいるのか、何かがあるのか、それともこれから何かが起こるのか。いずれにしても、隣に寝ている父と、上で寝ていると思っている私に隠れて行っていた情事を見つかっては困るだろう。何があったの、という問いに沢木からの返答がなかったことが、更に不安を増長させたに違いなかった。ましてや、こんな格好。目隠しをされ両手は縛られ、でも裸で片足にはパンティが巻き付いている。誰しも、こんな姿なんて見られたくないに決まっている。母は身体を動かそうとしたが、無理な体勢を支えるのが精一杯で、足は限界に近いのだろう、プルプルと震えていた。加えて、不安と恐怖も限界のはず。唇も震えはじめた。父の鼾が虚しく響いていた。手の自由を奪われたが、私はこのまま足で襖を開け、沢木に突進し、少なからず母の目隠しを取らせないように、そして出来れば父に気付かれることなく、沢木の行動を止めることは出来ないかと考えた。しかし、すぐにあの時のことを思い出した。沢木に二度も攻撃をかわされたことを。・・・無理だ。くそ!無力な自分に吐き気がした。こうなることが何で判らなかったのだろうか。沢木が嫌な笑顔になって口を開いた。何を言うつもりなのか。ああ、・・・やめてくれ!「ひょっとして息子が押入れに入っているのかと思ったら、やっぱいなかったわ」は?何言ってるんだ、こいつは・・・。
...省略されました。