母の言葉を無視して、沢木が冷たく言った。「お前がさっきから拒んでいたのは、不貞腐れていたのか? 」「え・・・? 」「そうなのか? 」ハッキリとした口調で詰問するかのように沢木が言い放った。「あ・・・、あ、あの・・・、ご、ごめんなさい。き、急にあなたが来たから・・・、隣にお父さんもいるし・・・。あ、あの子のことだって、何も聞いていなかったから・・・」「お前は俺に抱かれたことを後悔していると言ったんだぞ」「そ、それは・・・」「何だ? 」「あ、・・・。ごめんなさい・・・。う、嘘なの。あ、あたし・・・、な、生意気言って・・・。嘘です。ご、ごめんなさい。そん、そんな、つ、つもりなんて無かったんです。信じ、し、信じてください」母は命を取られまいと懇願するかのように、沢木に何度も何度も謝罪した。謝罪・・・。沢木に背くことは、もはや罪なのだろうか。それ程までしても『関係を持ったことを後悔している』という前言を撤回したかった母は、つまり再び沢木に抱かれたがっているということ・・・。自分と同じ年のガキに・・・。こんな母・・・、見たくなかった。見たくなかったが、私はどうしようもなく興奮していた。何だろう、この歪んだ気持ちは・・・。「ふん。まあいいさ。俺は過ちを追求しない。人間ができているからな。それより、お前は一つ大きな勘違いをしている」沢木の言葉にビクリと反応した母は、小動物の様だった。勘違いした、また怒られる・・・、そんなイメージなのだろうか。「あ・・・、あの・・・」口をパクパクとさせながら恐る恐るその真意を確かめようとしていた。「俺が何も対策をとらないで、お前の所へやってきたと思っているのか」「え? 」「旦那には『魔法』をかけてあるのさ」「魔法? 」「朝まで絶対起きない魔法がな、旦那にはしっかりかかっているんだよ」「そ、それって・・・、クス・・・」「おっと、滅多なことを口にするなよ。魔法だよ。俺は魔法使いなんだ。言ってなかったっけ」「まさか、あの子にも・・・」「ああそうだよ。だから二人とも朝まで絶対起きることはないんだよ。どう? 少しは安心したかい」嘘だ。私は『魔法』など掛けられていなかったし、おそらく父にしたって何も手を下されている訳がなかった。私と沢木はずっと一緒にいたし、確かに私は適正量を超えて酒を飲んでいたかもしれなかったが、そんな怪しい動作を見逃すほどではなかった。よしんば、私がトイレに立った隙に父のグラスに何かを細工すると言ったって、父だって限界までは意識があったのだから、父に気づかれずにミッションを完了させる事は容易ではないだろう。だから答えは明白、沢木は小細工なんかしていない。
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