スマホなど存在もしない20年以上も前の話。、世間に『インターネット』などという得たいの知れない言葉が流れ始め、僕も興味を持ちます。
『外人の無修正の裸を、普通に見ることが出来る。』と聞き、すぐにパソコンの購入を決めました。そして毎晩、それにふけるのでした。
ところがそんなもの1週間で飽きてしまい、せっかく買ったパソコンも起動することがほとんどなくなります。

久しぶりにパソコンを起動し、外人の裸ばかり閲覧していたのですが、すぐに飽きてしまい、大好きな『ガンダム』について検索をかけたのが始まりでした。
ガンダムの知らなかった情報、ガンダムの壁紙、それだけで楽しくて仕方なかった。そんな時に見つけたのが、ガンダムのチャットでした。
『なんだろ？これ。もしかして、文字で会話をしているのか？』、と初めて見るチャットに興味津々でした。
『こんばんは。』、初めて打った言葉に、『こんばんは。』『初めまして。』と全員から返事が返ってくる。『これは面白い！』、ハマり始めます。

そこで一人の女性と出会います。ハンドルネームは『サラ』でした。サラさんとは気が合い、いつも楽しく会話をし、いつしか僕は惹かれていくのでした。
僕のハンドルネームは『アッガイ』。いつしか、みんなからアッくんと呼ばれていました。

そのうちに、オフ会の話が出ました。ほとんどが関東の方で、みんな参加出来そうですが、僕は九州なので行けそうにもありません。
僕不在で行われたオフ会。いつしか、オフ会の写真もそこに掲載をされ、そこで初めてサラさんの素顔を見るのです。思っていた以上に可愛い方でした。
『もしかしたら、男じゃないか？』なんて思っていただけに、ちゃんと女性と分かり嬉しかった。それ以上に『サラに会いたい。』、そんな思いがつのります。

当時僕は25歳、サラさんは28歳。『彼氏持ち。』とハッキリと言われ、それでもチャットの中では僕のサラで、それだけでも充分でした。
それでも1年後、僕とサラさん２人だけのオフ会が行われることになったのです。チャットで出会って、1年半が過ぎていました

金曜の夜、飛行機で東京に向かいました。土曜日の朝、あるカフェでの待ち合わせ。田舎者がカフェに馴染めず、すぐにお店の外へ飛び出しました。
そこに、携帯が鳴るのです。画面には『サラさん』と表示されていました。『アッくん～？初めまして！』、サラの地声でした。
1年半もパソコンの画面、それも文字だけなのに芸能人に会うような感覚です。『後5分くらいで着きます。』と言われ、緊張が始まります。

人混みの中、彼女は現れました。『会えたぁ～！！』とすぐに僕の腕を掴んで来ました。『やっと会えたねぇ～！』ととても嬉しそうです。
それよりも、彼女でした。メッチャ可愛いじゃありませんかぁ～！僕より3つ年上なのに、感じさせない可愛さでした。
それから日曜までの２日間、夢のようなデートでした。生まれて一番楽しい2日間だった気がします。日曜の最後に向かったのが、レストラン。
そこでこんな約束をするのです。『お互いに40歳過ぎて結婚してなかったら、付き合おうか？』とサラさんが言うのです。
チャットのような楽しいノリに、『いいよん！』と答えて、僕は東京を後にするのです。
その後もチャットを続けますが、一回会ったことで冷めてしまったのか、チャットも不定期となり、その後二人はメールに移行をするのです。

メールから、時代はラインになりました。気づけば僕は48歳、彼女は51歳になっていました。しかし、あれから22～23年たっても交流は続いていました。
残念ながら、私は家庭を持てませんでした。『結婚したよ。』とラインには入りませんが、『きっと彼女は結婚してるだろうなぁ。』と思っていました。

『久しぶりに会う？』、そう連絡が来たのが去年の話。『文字だけの関係、もう二度と会うことはない。』と思っていただけに戸惑いました。
僕も老け、お腹も少し出ました。だから、写メとか送ってないのです。それでも、『じゃあ、20年ぶりに会おうか？』と決まります。。

48歳と言っても男です。女性にはカッコいいところを見せたいんです。そこで、始まったのがダイエットでした。彼女に会うまでの３ヶ月頑張るのでした。
結果は16キロのダイエットに成功して、20年前に会った時の体型に戻したのです。年齢は隠せませんが、体型はなんとかなったはずです。

20年前と同じように東京に向かい、同じようにカフェで待ち合わせでした。きっと当時よりも緊張してたと思います。
カフェが開き、女性が店内を見渡していました。面影から、サラさんだとすぐに分かりました。全てに年を取りましたが、可愛いおばさんになっていました。
『お互いに年を取ったねぇ。』と始まりますが、それでも気分は20代の頃のアッくんとサラです。楽しい関係には変わりません。

『もう結婚したぁ～？』と先に聞いてきました。『してない。』と告げると、『同じやねぇ。』とまさかのサラさんの返事でした。
『彼女は？』と聞かれ、『いないです。』と答えると、『じゃあ、あの時の約束を守ろう！』と言うのです。
きっと彼女は『そんな約束、忘れてるだろう。』と思っていたと思います。しかし、それは間違いでした。
僕はそれを忘れたことなどなかったからです。この年になって、『あの時の約束って、どうなの？』、なんて余計に思ったりもしていたのです。

カフェを出て、東京巡りもせず、ホテルで愛し合っていました。ここまで20年も掛かったのに、『長かった。』などとは思いませんでした。
彼女の本名も初めて聞きました。ベッドでは、ちゃんとその本名を口にしてあげました。もう二度と、『サラ』って呼ぶこともないでしょう。