随分前の話だが
仕事を一生懸命するだけが取り柄の何の面白みもない俺が
電車の中でお互いひとめ惚れした女性と26歳で結婚した。
そして母が新居に来た時の話だ。
「〇〇〇が結婚すると聞いてほっとしたのよ」と母がしみじみと言った。
「ヘェーなんで？結婚しないと思った？」と軽く答えた。
母はコップのビールをごくりと飲んで
「実はね、○○○が高二の頃ね。勉強の時にわら半紙何枚にも数字や式を書いて勉強していたよね」
「わら半紙ねえ、懐かしい」
「その中に、久子はどうとか書いた文章があって楽しみに読んでいたのよ」
大好きな母、久子を俺の愛人に見立ててエロ文章を書いていたのだ。
俺は顔が真赤になるのを感じた。顔から火が出るとはこういうことだと思った。
「知ってたの？・・・あれは燃やしていたはずだけど」
「それは学校から帰ってきてからでしょう？母さんはその前に読んでいたから」
俺はなんでこうも抜けているんだ。
「『何書いてんだ！』って怒ってくれれば良かったのに」
「誰にも迷惑をかけていないんだからいいじゃない。それに母さんは嬉しかったから」
俺は何も言えなかった。
「母さん、あの文の通りになるといいなあって思っていた」
と母が言ったとき、嫁が帰ってきてその話はそれっきりになった。
嫁の顔を見てなぜひとめ惚れしたのかはっきりわかった。