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2013/09/28 14:50:48 (6whmY.lM)
「ねぇ、待ち合わせに遅れるって、相手に、その約束を大事に思っていませんよ、って伝
えてるの、わかってる?」

倉田さんは、時間に厳しくて、待ち合わせ時間の前に必ず来ている。

「ごめん、ごめん・・・。 朝から緊張しちゃって、トイレに3回も行っちゃった・・・」
「バカ・・・」

いつもだと、もう一言くらいあるのだけれど、その日の倉田さんはすこぶるご機嫌で、僕
に新幹線の切符を手渡すと、自分のキャリーバッグを引いて、先に改札を通っていった。


直ぐに役所に出されるはずの書類は、ずっと倉田さんの下宿に置いてあったのだけれど、
お腹も目立ち始めたので、きちんとしなければ、と思って、僕から倉田さんへのご両親に
挨拶をしたい、と申し出た。

「いいの?」

僕がしっかりと頷くと、倉田さんは、本当に嬉しそな顔をして、晩御飯にはステーキが出
てきた。

二人でステーキを食べるのは、初めてではなかったけれど、いつもクールな倉田さんの
声が弾んでいるのが、わかった。

「食べ過ぎると、太っちゃうから」

ステーキのとき、倉田さんは、いつもそう言って、自分の肉を3等分して、その真ん中を
僕にくれる。

「くれるなら、端っこでいいよ」

そう言っても、倉田さんは、『いいの、いいの』と言って、譲らない。

あの日から半年足らず、秋が過ぎて、真冬を迎えていた。


ちょっとした旅行気分で、最初のうち、倉田さんは結構テンションが上がっていたのだけ
れど、実家が近づくにつれて、だんだん無口になってきた。

やがて、目的の駅につく直前になって、

「田中くん、うちの両親、っていうか、お父さん、ちょっと古いタイプだから、何を言わ
れても気を悪くしないでね」

と思い切ったように言った。


途端に、僕は、ブルーになってしまった。
『また。またぁ。 倉田さぁん、僕をビビらせようと思ってぇ』とは、言わせてもらえな
いくらい、倉田さんの目は、マジだった。

『マジかよ。聞いてないよぉ』

どれだけ、心の中で、文句を言ってみても、もう後戻りできないところまで来ていた、時
間的にも、物理的にも。

駅前からタクシーに乗り込むと、倉田さんの実家は直ぐで、考える暇も、来たことを後悔
する暇もなかった。


タクシーが止まる音を聞きつけて、倉田さんのご両親が、にこやかに出迎えてくれた。
庭仕事か何かの最中だったのか、倉田さんのお父さんは首からタオルをかけて、軍手をは
めていた。

僕は、少し、ホッとして、倉田さんが、少し色黒なのは、お父さん似だ、などと呑気なこ
とが脳裏をよぎったが、タクシーから降りた倉田さんを見た瞬間、父親の笑みが消えるの
を僕は見逃さなかった。倉田さんと付き合い始めてから、僕も少しは人の表情に注意を払
うようになったのだ。

倉田さんのお父さんは、娘に歩み寄ると、無理に抑えた声で、倉田さんのお腹に視線を送
りながら、

「父親は、コイツか?」

とだけ訊いた。

嫌な予感を予知するところまで、僕は成長していたが、そこまでだった。

伏し目がちに、倉田さんが頷いた瞬間、僕に鉄拳が飛んできた。予感は現実となったが、
危機回避行動にまでは、至らなかった。

「おとうさんっ!!」

倉田さんと母親が同時に叫んだ瞬間、僕はぶっ飛ばされていた。
あとにも先にも、人にグーで殴られたのは、人生でこの時、一度きりだ。

倉田さんが、僕に駆け寄り、

「大丈夫?」

と訊いてくれたが、大丈夫じゃない。

頭がくらくらして、目が涙で滲み、声しか聞こえてこなかったけれど、

「怒鳴られるのは、覚悟してたけど・・・! お父さんみたいに、頑丈じゃないんだから、
手加減してよ!」


『ねぇ、倉田さん。それって、僕を擁護してくれてる? けなされてるように感じるのは、
僕のひがみ?』

一瞬、そんな考えもよぎったが、思考は長くは続かない。軍手をしていたのがせめてもの
救いだったが、それでも、痛みは尋常ではなかった。

気を失ったわけではないけれど、ほとんど前後不覚のまま、僕は家の中に連れられて入り、
タオルに包まれた氷を頬に当てられた瞬間、痛くて、我に返った。

倉田さんと倉田さんのお母さんが、何かを話している。

「あんたにも、手を挙げたことは、なかったのにねぇ」

『あの調子で、倉田さんが殴られてたら、今のきれいな倉田さんは存在しないよ』
痛みに耐えながらも、そんなことが頭をよぎり、娘には手を挙げなかった倉田さんのお父
さんに、ちょっとだけ感謝する、ヘンな僕。


最早、絶縁状態かと思っていたら、夕飯の席でのお義父さんは、一転してモードが切り替
わり、

「娘を想う父親のしたことだ、許せ」

と一言だけ、謝られて、あとはお酒を勧められた。不思議と後を引かない切り替わり方
も倉田さんは、間違いなく、受け継いでいる。


豪快なお義父さんは、しきりに酒を勧め、『婿殿、婿殿』と言ってくる。
アルコールの所為で、顔がちょっとズキズキして、もうすこし元気なら、『中村主水
かっ!』と言う突っ込みもできるのに、などと思いながら、僕はただ、中途半端に笑み
を浮かべて、お義父さんと酒を酌み交わし、二人きりの食事を終えた。

倉田家は、田舎のちょっと古いお家で、ダイニングに相当する部分が、少し高い床と低
い床の二段になっている。

食事の時、先ず、お義父さんが高い方の段で食べる(この時は、僕も)のだが、お義母
さんと倉田さんは、何も食べずにお給仕をしてくれる。僕らが食べ終わり、片付けが終
わったところで、倉田さんとお義母さんが、一段低い方で、食事をする。

お風呂も、当然のように、お義父さん、僕、お義母さん、倉田さんの順で入る。そこだ
け、まるで、タイムスリップした世界を見ているようだった。


敷いてもらった布団の上で、倉田さんがお風呂から上がってくるのを待ち、漸く、二人
で話をすることができた。

「吃驚した?」

「・・・驚きの連続で、どのことを訊いているのか、わからないや」

倉田さんは、クスリと笑い、

「それもそうだね。でも、良かった。お父さん、田中くんのこと、気に入ったみたいだ
し」

「え、えーっ!? 僕、気に入られたの?」

倉田さんは、優しく微笑むと、頷いた。


「まだ、痛い?」

「今は、漸くお酒が麻酔の役割をしてる気がする」

「ゴメンね」

「うん」

そこで、僕は漸くちょっと気になっていたことを口にした。

「・・・それと、自分が、頑丈にできてないのは、よくわかった」

倉田さんは、一瞬、話を見失った、と言う顔をしたが、直ぐ頭の上で電球が点って、

「なに? 傷ついた?」

「別にぃ」

僕がちょっと口を尖らせると、倉田さんは、ふふっと笑って、ゆっくりと耳元に顔を近
づけると、小声で、

「でもね、そんなデリケートで、ナイーブな田中くんが好きなの」


倉田さんは魔法の言葉をいくつも持っている。その一言で、僕はメロメロになりながら、

『そうだ。僕は、デリケートで、ナイーブなんだ』
『でも、ナイーブって何? 英語?』

そんなことが、僕の中で交錯するうちに、僕は、倉田さんにぎゅっと抱きしめられた。

「今日は、ありがと。 すごく、嬉しかった」

お風呂上がりの倉田さんは、とてもいい匂いがした。


「ねぇ、田中くん・・・、する?」

倉田さんに、この優しいトーンで言われたら、例え、喧嘩の臨戦態勢下にあっても白旗を
上げてしまうだろう。ましてや、友好和平状態下では・・・、僕は、コクリと頷くしかな
かった。


倉田さんは、僕の寝巻のボタンを外すと、僕を仰向けに寝かせ、自分もパジャマを脱いで、
僕に覆いかぶさってきた。倉田さんの唇が優しく僕の唇を覆い、舌を絡め取られると、ア
ルコールの影響を懸念する僕の心配を他所に、下半身は徐々に覚醒していった。

倉田さんの細い指が、僕の身体をすべり、舌を吸いながら、やさしくジュニアを撫でる。
倉田さんの唇が、僕の上半身から下半身に移っていき、舌が僕を這った後、倉田さんの薄
い唇の奥に吸い込まれていった。

それからは、しっかり直立不動となった僕が、倉田さんに導かれて、ゆっくり倉田さんに
包まれる。少し大きくなったように見える、倉田さんのきれいな乳房が僕の前で揺れてい
る。

倉田さんの中で、『田中くんの素』を放出しながら、僕は思った。
将来、僕の娘に手を出す奴がいたら、容赦なく、ソイツをぶっ飛ばす。
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2
投稿者:enzzob   enzzob
2013/09/28 19:20:59    (T2MXdGdo)
田中君 今回もOKだよ。嵐がきても止めるな。
3
投稿者:中区
2013/09/30 00:36:58    (1i7ujkw9)
いい話ですねぇ。情景が目に浮かぶ描写が素晴らしいです。
また機会があれば、アップしてください。
4
投稿者:(無名)
2013/10/05 09:48:31    (lndf64EV)
このシリーズいつまで続ける気?
5
投稿者:まさお
2013/10/07 21:42:59    (wMwyBX/g)
続けたっていいじゃん!無名ごときがとやかくくいうことじゃないでしょ。無名ごときにゃできないかもしれないが、てめいで完結してみればいいじゃん。できねいかもね。
投稿したいからする。読みたくねえならくんな。ほんと無名ってろくな事言わない!たまにゃましなこと言ってみろ!
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