いつものバーカウンターの止まり木に肩を並べて小一時間がすぎた頃、私は話を切り出しました。
「妻が、君に男としての自信を取り戻させてあげたいと話してる」
いきなりの最終弁論で直球勝負です。
ここでも嘘はついてません。
今回の計画のもうひとつの肝は、明らかな嘘をつかないこと。妻と田中君は頻繁にメールのやりとりがある仲なので、私が都合のいい嘘で説得しようとしても、それがばれて計画が水泡に帰すリスクを恐れました。
「え?それは、どういう。すいません。よく、意味がわからないんですが」
「妻が体を張って君に性の手ほどきを行い、君が男として一皮むける。その姿を僕も見ていたい。そういうことだ。」
酒の力も借りて、一気に勝負をかけます。
田中君は、グラスを手に持ったまま、歓喜と戸惑い、そして僅かな猜疑心の入り混じった顔で私を見つめ返しました。
「でも、西村さんはいいんですか?つまり、僕と、奥さんが、その、そんなことをしても」
予想通りの反応でした。
ここが計画のもうひとつの肝だったので、私は慎重に用意してきた答えを、できうる限り感情を込めて、彼に話しました。
今回の計画の最大のリスクは、職場の学生を交えて妻と3Pをするという、反社会性にありました。具体的に言えば、もしこのことを彼が友人等に吹聴するようなことがあると、最悪の場合、私が職を失いかねないということです。
ですから、それを防止するために万全を期して、いかに私たち夫婦が彼の未来を慮っているか、そのために私達自身の社会的立場を賭しているか、ということを、念入りに説明しました。
彼の誠実な人柄に信頼を置いたからこその、今回の計画だったのですが、最悪の状況だけは避けたかったので念には念を入れました。
そして、私の熱意が伝わったのか、妻の魅力に陥落したのか、あるいはその両方なのか、田中君からの了解を取り付け、私の計画は最終段階に達したのです。
※元投稿はこちら >>