2025/10/22 12:33:05
(7mUaTKQk)
雅美は俺とのみならずカウンター席に座る常連客達とも何曲かカラオケを歌い、やんやの喝采を浴び上機嫌に見えた。
11時を越えたあたりに常連客の1人が最近流行りの煩い曲を歌い始めると雅美は俺の腕に胸を押し付けて俺の耳元に顔を近づけて囁いた。
お客さんは、お名前は?
最近流行りの裏声でバカ高いキーのサビの曲を悲鳴のような声で歌う常連客の歌が煩くてさっぱり聞こえない。
え?何?俺が雅美に向き直って聞き返すと、俺に身体を預ける様にもたれ掛かって俺の顔を真っ直ぐ見つめながらアナタの名前は?と尋ねてくる。
俺がヤマちゃんって店では呼ばれてると返すと、まるで抱きつくように更に身体を預けて、ねえヤマちゃん。この店そろそろ一緒に出ない?ワタシ前から行きたい店があるんだけど、1人じゃ行きづらいの。ちょっとだけ付き合ってくれないかな?
普段は11時には店を切り上げ0時には床につく俺だがこの日はたまたま次の日が前週の休日出勤の代休で休みだった。翌日が休みという解放感も手伝って、普段なら誰からの誘いだろうとこの時間から、もう一軒行こう等にはならないのだが俺は雅美からの誘いを承知した。
いや、見苦しい言い訳だ。相手は30を幾つか越えたグラマーな身体つきの女ざかり、更に先程から不自然に俺に胸を押し付けてきたり明らかに誘って来ている。しかもかなり酔っている。
最近大分くたびれて来たとは言え、俺とて男の端くれだ。この状況で期待するなと言うのが無理な相談だ。俺は久しぶりに良からぬ淡い期待を胸に、しかし平静を装い極めて冷静な口調であまり遅くなれないですがもう一軒だけなら良いですよ、ご一緒しましょうと答えた。
ママに雅美の分と合わせてお勘定を頼む。雅美は慌てて俺に自分の分は支払うと言うが俺が断るとじゃあ次の店は私が払いますと言う。
そのやり取りを聞いた常連客達の抜け駆けだ!おっ商談成立か?等という冷やかしの声に送られるように店を出た。
店先迄、珍しく送りに出て来たママがちょっとと俺を呼び止めると俺の上着の襟を直す仕草をしながら近づいて来て、俺の耳元で小さな声でヤマちゃん、あの女気をつけて。何かざわつくのよ。早めに切り上げてちゃんと家に帰りなさいねと言った。
やはり小さな店とは言え伊達に水商売のママをやっているワケでは無い。ママさんの胸騒ぎは見事に的中した。
〜つづく