2022/12/22 11:14:07
(QVa8JbwY)
葉山小夏の返信は至って常識的なものだった。
トミさんフォロー有難う御座います。
結婚生活は大変な部分も有りますよね。私も苦労しています(笑)それでも奥様と娘さんを大事にしてあげてください。
私は最近やっと落ち着いて来て、また活動を少しずつ再開し始めました。Twitterも放置状態でしたが、こちらも再開しようか、もう誰も私のTwitterなど見てないかと思い最近見ていたら、新しくフォローされた。思わず嬉しくてフォローバックしました。
少しずつですが再開した活動をこちらに報告します。是非応援よろしくお願いします。
と書いてあった。内容は当たり障りの無いものだったが若い頃好きだったグラビアアイドルからの返信に俺は年甲斐も無く心が弾んだ。
それから1週間程して葉山小夏のTwitterが新しいツイートを表示した。
彼女の地元、湘南のミニFM局で昼間2時間の番組パーソナリティを務める事になったというツイート。
2時間前に上げられたツイートには6個のいいねが付いていた。俺は早速いいねを押して彼女にダイレクトメッセージを送った。
おめでとうございます!良かったですね!
残念ながらFMの電波が届かないところに住んでいるので番組が聞けないのが悔しいです。
でも応援してます。頑張ってください!
その日は仕事で少しトラブルがあり、その対応に追われた。仕事が終わり俺は帰路の電車の中でスマホを取り出しTwitterを開く。
彼女から返信があった。
トミさん、有難う。私も久しぶりのお仕事でワクワクしています。トミさんラジオ聴けますよ。今、小さなコミュニティFMを聴けるアプリが有るんです。
是非、番組聴いてくださいね。
彼女はそのアプリのダウンロードの仕方を書いてくれていた。
俺は早速電車のなかでスマホを操作してアプリを手に入れた。FM局の名前で検索すると局のホームページがあった。トップ画面には少し大人になったが相変わらず愛嬌のある彼女の明るい笑顔の画像が張り付き、月の変わる来週から始まる新番組の告知がされている。
俺はアプリを手に入れたこと、局のホームページを見た事、貴女の笑顔が相変わらず素敵だったと彼女に返信を入れた。
帰宅して玄関を開けたが、いつもの通り玄関先の人を感知して灯る小さな明かりが俺を出迎えるだけだ。真っ暗な廊下、居間、食卓の電気を点ける。
食卓にはいつもの通りラップを掛けた皿がのっていた。俺は冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出す。
冷蔵庫の扉には数枚の写真がマグネットで留めてあるがハロウィンの仮装をした娘と嫁、ディズニーランドではしゃぐ娘と嫁。全て娘と嫁のツーショット写真だ。
この家に泥棒が入ってコレを見たら間違いなく母子家庭だと思うだろう。
写真と一緒に貼ってあるのは娘の週間スケジュールだ。今日は水曜日、娘は嫁が見つけてきた有名女子校合格に実績が有ると云う車で40分掛かる塾に娘を連れて行く日。嫁は娘を塾に連れて行くと近所のカフェなどで塾が終わるのを待ち、ふたたび娘を車に乗せて帰ってくるのだ。
俺は缶ビールを飲みながら葉山小夏のTwitterの過去ツイートを順々に眺めていた。
彼女の地元はうちから電車で1時間程。俺はつい半年程前に彼女の地元にある得意先の新工場の立ち上げで3か月程頻繁に行っていたので、彼女のツイートの地元の店や風景の画像や話題を身近に感じた。
彼女オススメの地元のラーメン屋についてのツイートを眺めている時だった。葉山小夏から返信があった。
トミさん、アプリ入れてくれたんですね、有難う御座います。今日番組のディレクターさんと打ち合わせがあったんです。ラジオはゲストで出演の経験は有るけど自分の番組なんて初めて。
今日打ち合わせしながら、不安になってしまいました。私、ちゃんと出来るかな。自信が無くなってきました。
この返信が彼女が初めて自分の気持ちを書いた返信だった。俺は直ぐに励ましの返信を送った。
彼女から直ぐにまた返信があった。
最初は、そんなきっかけで俺たちは始まった。