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2022/07/25 19:29:49 (XTJQbWDF)
俺は今年の夏で53歳になる。世の中では初老と呼ばれる年齢だ。バブル世代に当たる年齢だ。

世の中全体が浮かれていたのだと思う。二流大卒の俺ですら就職は売り手市場。
軽薄な時代のままに軽薄な生き方をしていた俺。

中堅食品問屋の営業になった俺はバブル景気に乗せられて毎晩のように接待でバーやクラブ、盛り場で客と飲む事自体が仕事だった。

接待相手を早朝、帰宅のタクシーに乗せる時に田中ちゃん、さっきの話、了解。ちゃちゃっと上手くやっといてよ。なんてセリフを聞くのが仕事完了の合図だった。

バブルが弾け、ネットが普及し、食品のみならず問屋業という業態自体が成立しない時代になった。俺が勤めていた会社もあれよあれよと思っている間に世の中の流れに飲み込まれ営業所、支店をたたんで縮小の一途。その間にリストラや見切りをつけて転職していく同僚たち。

俺はどうにかそんな会社にしがみ付いていたが遂にコロナ禍にとどめを刺される形で会社が身売りが決まった。

随分と前から噂は社内で立っていたし、空気感として感じるものも有ったが、来年あたり何かあると話していた俺たちに突然の通告が昨年末に告げられ俺はこの歳で、この時代に通用するスキルひとつ持たずに世の中に放り出されるコトになった。

バブル景気が弾けて以来収入は横ばいの上に若いときの勢いで間違いだらけの結婚をした俺は慰謝料だの養育費だけは一人前の金額を支払い続け、まさに無一文に近く、気がつけば老害の体現者という有り様だった。

くたびれたスーツに染みだらけのネクタイを締めて昔のツテを頼りに履歴書を持って回ったが哀れみの表情を浮かべる連中に迷惑がられるだけだった。

養育費はあと2年程支払っていかなければならない。俺は仕方なく近所の牛丼屋と早朝の弁当屋の仕込み、配達の2つのアルバイトを始めた。

正直言ってこの歳の男に、それらのアルバイトの仕事は切なくて死にたくなるような場面が多々あった。しかし今年の正月から仕事を始め半年が経ち、プライドなんてものはとうに崩れ去り、自分の息子のような年齢の深夜の酔客らに、ジジイおせーよ、醤油ねーよバカ!なんて言われてもヘラヘラとすみません。とペコペコしながら醤油差しを持っていく事に心が何も感じなくなっていった。

心が死んだと実感していた。疲れた身体を引きずり自宅に戻って弁当屋のあまりものを貰ってきて缶チューハイでそれを流し込み、そのまま布団被って寝る。

夕方にゴソゴソと布団から這い出し、シャワーを浴びてまたバイトに出かける。月末に振り込まれた金で養育費、家賃、光熱費を支払うと通帳に残る金は僅かだった。

俺は毎日を感情を押し殺して働き、生きていた。そんなある日の事だ、コロナ禍で飲食店の終業時間が早まっている時節柄、24時間営業は流石にしていないにせよ深夜までは営業している牛丼屋には夜食難民の客が遅い時間に殺到する。

牛丼屋に来店するにはおよそ似つかわしく無い洗練されたいでたちの40代と思しき美女が遅い時間に週に1、2度テイクアウトの牛丼を8食程買い求めに来る。

その日も11時を過ぎた頃、真っ白なブラウスをざっくりと着こなしタイトな膝丈のグレーのスカートからスラリと伸びた脚にハイヒールを履いたショートカットの美女が現れた。

店内で牛丼をかき込む男たちの視線を否が応でもひく美女は、その絡みつく様な視線たちを断ち切るが如く自信に溢れた歩調で注文カウンターまで歩み寄った。

俺のこんばんは。いらっしゃいませ、ご注文は?の声に美女は涼しげな目元に笑みをたたえて、こんばんは。と返し手にしたメモ書きを見ながら注文をする。

オーダーを受け付けて、彼女にお待ちくださいと伝えるとカウンター席にすっと座った。
俺が差し出した水を少し飲むと短く溜息をついて考えこむ様な仕草。

この時はまだ、負け犬代表の様な牛丼屋でアルバイトするくたびれた初老男と気分転換に従業員の夜食を買いに出る仕立ての良い純白のブラウスを着こなす成功した建築設計事務所経営者の妙齢女性を繋ぐ接点は無かった。

俺が、この純白のブラウスを脱がせ、たわわな彼女の乳房を揉みしだく事になるとは彼女も、自分自身ですら頭を掠めることすら無かった。
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投稿者:田中
2022/07/26 14:08:22    (B7kKal8N)
物流センターの住所を聞いて俺の心はざわついた。そこはまさしく俺が勤めていた会社が立ち上げた物流センターの改築工事の話だった。

バブル崩壊で時代の潮目が変わった事を読みきれなかった会社の最初の致命的なミスがその物流センターだった。地元の中堅スーパーの為に作ったセンターはバブル崩壊で銀行の貸し渋りで資金繰りが急激に悪くなったスーパーから当初の見込みの3分の1程度の物流しか業務を委託して貰えなかった上に、一年後には不採算店舗の閉店が相次いで、業務委託を打ち切られた。

その後、この施設の建築費返済、維持経費が会社の大きな負担になっていく。
俺たち営業も会社から連日、何処でも良い、幾らでも良いから契約先を取ってこいとハッパをかけられていたが、世の中のスーパーマーケット事情は大型商業施設の大型店舗もしくはコンビニより少し大きな小型店舗の二極化に進み、地元中堅スーパー用に作られた物流センターはいずれにも中途半端で最早その需要を全く失っていた。

聞けば、ウチの会社を吸収した会社はそこをアニメ、ゲームのキャラクターグッズのネット販売の拠点にするという事だった。
俺はその話を聞いて世の中が変わった事を今更ながら痛感した。

俺が立ち上げの際に業者と苦労してさんざんやり合って設置した冷蔵庫や冷凍庫を解体して商品在庫が一目で分かる半自動の品出しシステムを組み込んだ在庫棚を設置するのだという。

俺はそれを聞いて自分の半生が全くの無駄だったのではないかと打ちのめされた。その時の俺は酷い顔をしていたらしい。

田中さん、田中さん!呼ぶ声に俺は我に返った。
大丈夫?彼女が聞いてくる。
俺は取り憑かれた様にそのセンターを苦労して立ち上げたこと、そのあとに更に苦労して営業しまくった話。そして
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投稿者:田中
2022/07/26 14:53:42    (B7kKal8N)
今まで、今、自分が置かれた境遇を彼女に話していた。会社から切られて以来、必死にバイトでしのぎ、毎日働いて誰とも会話らしい会話もしてこなかった俺は堰を切ったように彼女に話をした。

話終わって俺は気まずくなり、すみません。こんな話をしてしまって牛丼出来たみたいです。
お待たせしました。と言って慌てて牛丼を取りに行き彼女に渡した。

彼女は田中さん、大丈夫ですか?色々とあったんですね。頑張ってください。こんな事しか言えなくてごめんなさい。とすまなそうな顔をした。

俺はとんでもない、何故か馬鹿な話をしてしまいました。申し訳ない。お待たせしました。有難うございました。と打ち切ろうとした。

彼女は心配そうな表情で牛丼を受け取ると店を出る時にもう一度振り返ってぺこんと頭を下げた。

俺は自己嫌悪に襲われ、恥ずかしくて居た堪れず、どうにか勤務時間を勤め上げると留学生達に挨拶もそこそこに逃げるようにアパートに戻った。

何故あんな話をしたんだろう。俺は後悔で苦しくて仮眠どころでは無く、時間になると無理に身体を起こして何とか弁当屋の仕事に向かった。

次の日、俺は彼女が牛丼屋に来ない事を願いながら仕事をしていた。店の横に空いたバットを積み上げている時だった。

背後から田中さん。と声を掛けられた。
俺が振り向くと彼女が立っていた。

俺はバツが悪く、バットを直すふりをしながら昨日はくだらない話を長々として、すみませんでしたと言った。

彼女はいえ。私、心配で。
余計なお世話かもしれないですし、私が何を出来るわけでも無いんですけど。
でも、もし何か話したくなったら電話ください。

そう言って彼女は俺に名刺を差し出してきた。
名刺には印刷された仕事携帯番号の下に手書きで彼女の個人携帯の番号が記されていた。

俺は驚き、いや何か昨日は最近色々あったから弱気になってて思わず愚痴ってしまって…でも大丈夫です。もうオヤジだから、こんな事には慣れっこですからと応えた。

彼女はそうですか。良かった。元気出してくださいね。でも何か話したくなったら本当に電話くださいと言って名刺をふたたび差し出す。

俺は微笑んで、有難うございます。じゃあこれは何かあったときの為にお守りで大事にします。と応える。

彼女はにっこりと笑うとお仕事の邪魔してごめんなさい、お仕事続けてください。じゃあまた。と言って通りに歩を進めた。

俺はその後ろ姿を見送りながら何十年ぶり、いやもしかしたら初めて他人から受けた優しさに心が温まるのを感じた。

次の日曜日俺は久しぶりにバイトが2つとも休みで完全休業日だった。朝からコインランドリーに出かけて溜まった洗濯をして久しぶりにアパートの窓を開けて、万年床の布団を干した。

部屋を掃除して、久しぶりにスーパーに行って飯を炊き、カレーを作って食った。
半年ぶりにまともな飯を食った気がした。

外は快晴だった。俺は冷蔵庫にマグネットで留めた彼女の名刺を眺めた。
浅岡佳江。

手書きの番号を指でなぞってみる。
彼女に電話する勇気も無いが、それでも世の中で俺を気にしてくれる人が居ると思うだけで幸せな気分になれた。

俺の携帯が鳴った。着信はもとの会社の同期の男だった。俺はどうせしみったれた話にしかならないので会社をリストラされて以来、同僚の着信は無視を決め込んでいたが、何故かその時は出てみる気になった。

電話の声は同期入社で俺と同じく最後まで会社に残った森田からだった。
俺が電話に出ると、おー出た。やっと出たよと明るい声がした。元気か?と尋ねてくる。
実は俺、再就職がやっと決まってさ。今の仕事場でもう1人俺みたいなヤツを探してるんだよ。

お前まだ牛丼屋行ってるのか?話だけでも聞かないか、今日これから出てこられないか
というものだった。

俺は牛丼屋、弁当屋のバイトに疲れ切っていたし、年齢の事を考えるとこのままバイトでは不安もあって森田の話を先ずは聞いてみることにした。

森田が指定したのは駅前のコーヒーショップだった。俺は久しぶりにワイシャツの袖に腕を通して着替えて出かけた。
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投稿者:通りすがり
2022/07/26 17:59:24    (dViIBlpo)
ある意味 勉強になっています

続き楽しみに待っていますよ
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投稿者:shin   s2826488
2022/07/26 21:32:43    (40.E1k4x)
実際の出来事かは別として、引き込まれますよ。続き楽しみにしてます。
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投稿者:(無名)
2022/07/27 02:27:13    (CSRVfnSN)
田中さん、大変に面白くて秀逸なストーリーです。その良さが解らないと言う雑音は気にせず、続編宜しくお願いします。
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投稿者:おちゃ~ぶり
2022/07/27 06:53:53    (0YaGN3Yi)
起死回生の話、まだまだ半分もいっていないかもしれませんが、楽しみにしています。
事実は小説よりも奇なり、と申しますので。
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投稿者:**** 2022/07/27 08:02:13(****)
投稿削除済み
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投稿者:田中
2022/07/27 09:09:47    (vOBfmwz6)
コーヒーショップに森田は先に来ていた。
店内に入り見渡すと森田が奥のテーブル席で折り畳んだスポーツ新聞を持った手を振った。

俺はコーヒーを乗せたトレイを持って森田のテーブルに座る。悪いな急にと言って森田は懐かしい笑顔を見せた。

元気だったか?と尋ねる森田に俺は変わり映えしない近況を伝える。森田の話は俺には魅力的に思えた。

森田は俺同様に会社の吸収合併時にリストラにあい、履歴書を持って昔のツテを回り、ハローワークにも登録したがマトモな職にはありつけず仕方なく自宅近所のスーパーの駐車場警備などをして日々をしのいでいたそうだ。

そんな時に森田のひとつ下の弟の子供。つまり森田の甥っ子にオジサン、僕が今度立ち上げた会社を手伝ってくれませんか?と声を掛けられたらしい。

森田の甥っ子はまだ20代らしいが、大学にざ
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投稿者:通りすがり
2022/07/27 12:57:12    (7YjgrGf5)
<18番

なんだかんだ言って 気になるもんだから
覗きには来る

偉そうにディスるだけは出来るが 
本人には綴る能力どころか、体験すら無い口先だけのヘタレ野郎

人の文章にケチつけるなら 一度お前が書き綴って公表 発表してみろよ 

情けない口先だけのくせしやがって
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投稿者:(無名)
2022/07/27 14:28:24    (JRX4VfKo)
20番さんにハゲしく同意。ボブ・ディランだって小説じゃなくて音楽(詞)でノーベル文学賞を貰ったじゃないか。長い前戯の好きな女もいれば、長い前説も厭わない読者もいる。全てはテクニック又は内容次第。さぁ、ヘタレは退場しませい。
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