2022/06/23 19:39:32
(3G.k.zWf)
最近越して来たんですか?と妙子に聞かれて以来、俺は中華料理店に行くたびに妙子と会話する様になっていた。
単身赴任であることや、この幹線道路をずっと行った先に勤め先があること。子供が高校生の子供が2人居ること等を俺は妙子の優しい笑顔や口調にすっかり心を許し話し、妙子を通じて仲良くなった中華料理店の店主や常連の男と週末に釣りに誘われて出掛けたりする様になっていた。
妙子はバスで20分程走った先の私鉄駅前の団地に地元の中堅建設会社に勤めている旦那と住んでいた。
三六歳、子は居なかった。専業主婦で自分の小遣い稼ぎに中華料理店の店主の奥さんとたまたま知り合いで誘われて勤めるようになったらしい。
あの日、俺は仕事が早く終わって5時には店のいつものカウンターでネクタイを緩めて2本目の瓶ビールを飲み終わっていた。俺はふと明日の仕事の資料で手直ししなきゃいけない事があった事を思い出して妙子に勘定を頼んだ。
妙子はその日早上がりのシフトで、交代のパート主婦とレジのところで白い制服を脱いでいた。
あらトミさんもう帰るの?と妙子は愛想よく笑う。
奥の交代のパート主婦に大丈夫私がやるからと言って俺から勘定を受け取りレジに入れた。
お疲れ様でしたー!おさきに。調理場に声を掛けて店を出る。俺たちは一緒に店を出る形になった。
バス停は俺のアパートの少し先だ。俺たちは並んで歩くことになった。
トミさん毎日来てるね。営業妨害になっちゃうけど毎日中華料理じゃ身体おかしくしちゃうわよ。
妙子はケラケラと笑いながら俺に話しかける。
結婚してからこんな風に家内以外の女と並んで他愛もない話をする事はなかった。
俺はこのシチュエーションに良い歳をして妙に気持ちが昂ぶるのを感じた。
それはそうなんだけど、妙子に会いたいから
俺は軽口を叩いたつもりだったが微妙な空気になってしまった。お互いに実はこの時既に意識していたのだと思う。
妙子は少し照れた様子でトミさん真面目な顔して結構言うのね。もう。意外な事言うからびっくりしちゃった、揶揄わないでよ。
結婚して以来、俺は不倫どころか女遊びひとつしてこなかった。それが何故か中華料理店でパートをする特に美人でもなんでも無いごく普通の主婦相手に何故かスイッチが入った事を感じた。
妙子さん、ちょっとだけその辺に飲みに行かない?
まぁ近所だから人の目もあるだろうから逆に明るく普通の居酒屋で、この先にあるこないだオープンした若い連中が行くような店で生ビール2、3杯飲むくらいなら問題ないでしょ?俺は軽い口調で努めて明るく誘った。
えーっ。でも…妙子が言い訳をする前に俺はまぁ良いじゃない。軽くだよ。行こ行こと言って歩みを早め店に少し強引に誘った。
妙子は困った表情を浮かべ、じゃあ1、2杯。本当に軽くよ。私7時には家に帰らなきゃならないから。
そんなに遅くならないよ。よし決まり。
行こう。俺たちはこの日から始まった。