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2022/01/26 09:59:29 (whnAk1Ul)
今思えば、歌の文句じゃないが俺がそんなにモテる訳無いよってやつだった。俺が払った代償は脇が甘いと世間に笑われて終わりなんて生易しいものでは無かった。全て失った、そう本当に俺の人生の根こそぎ全て。

俺は中堅外食チェーン店の営業部長をしていた。両親が早くに離婚し長男の俺の下に妹が2人、シングルマザーになった母は昼夜を問わず働いて俺たち兄妹を育てた。

母の苦労を間近に見て育った俺は早く世に出て稼ぎ母を楽にしたかった。中学を卒業すると普通高に行けという母の希望を断り夜間高校に通いながら今の会社が当時俺たち家族の住んでいた町の幹線道路沿いにオープンしたファミレスに毛が生えたような和食店で働き始めた。

元々は洋食系の店舗展開をしていたうちの会社が始めた和食第一号店だった為、当時社長で今は会長の高橋会長が開店初日から連日自らホールを仕切るグループ上げての肝入り店舗。

その店舗の最年少スタッフの俺の家の事情を知る会長は自らがやはり高卒の叩き上げでここまでグループを大きくした男であり、自分の生い立ちに近い俺をことさら目を掛けて可愛がってくれた。

飯食っているかと聞かれて飯に連れて行って貰ったり、時には母に何か買ってやれと他の従業員には見えないところで小遣い銭を俺に握らせた。

父親の存在を知らずに育った俺には会長は頼もしく父親の様に思えて、いつからか会長の役に立ちたいと思うようになり、必死に仕事を覚え開店から半年後にはホールの備品の発注等少しづつ責任ある仕事を任されるようになっていった。

第一号店が上手くいき、和食の多店舗展開を始めた会長が開店当初以降はひと月に二度程来店する程度だったが来店のたびに俺を呼び近くの喫茶店で近況を聞かれて頑張れと励まし、美味いもんでも家族に食わせてやれと小遣いをくれるのだった。

俺は店で働いて夜間高校を卒業すると会長の勧め通りにウチの会社に就職し、ちょうど4月に開店する新店舗の店長として店舗スタッフとしてホールでバイトと同じ仕事をする同期入社とは全く違う環境で社会人生活をスタートさせて貰った。

それから20年近く会長のお気に入りとして俺は会長の恩に報いたい一心で働き続けた。
その会長を俺は裏切った。

俺の人生は1人の人妻と出会った事で堕落し、全てを失ったしまった。
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投稿者:サト
2022/01/26 11:23:38    (oZx0PPPg)
何があったんですか?
続きをお願いします。
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投稿者:としあき
2022/01/26 12:09:05    (vxKV8Ncn)
俺は時流に乗って大きくなる会社の中で新卒採用の大卒や他チェーンから引き抜かれたやり手の中で揉まれながらも高卒としては異例の出世コースを登っていった。

社内では会長のお気に入りとして疎まれる向きもあったが、俺は必死に勉強して資格を取ったり従業員と密にコミュニケーションを図り幹部連中に一目置かれる存在になるべく、そして何より会長に認められるべく生きてきた。

俺は同期入社としては大卒より先に部長職に就いた。俺のこの人事は社内に少なからず波紋を広げた。色々なやっかみやあらぬ噂を耳にした。

気にかけてくれている会長から時折、気にするな頑張れという旨の言葉を掛けて貰っていたが正直言って社内では疎外感を感じる場面が多々あった。

そんな孤独感に付き纏われ俺は結婚し家庭を持つ事を強く意識する様になり、たまたま知人の紹介で知り合った女性と三度程食事をした程度で早々に結婚を決めた。

妻の光代は8歳年下で地元の高校を出た後、地方銀行に就職し一度結婚したものの旦那の浮気が原因で2年程の結婚生活は破綻して当時は地元の運送会社の事務をやっていた派手な事を好まない地味な女だった。

俺は恋愛には縁遠い人生だったから、結婚なんてこんなものだろうと光代と入籍し、郊外に中古の出物の小さな一軒家を購入して結婚生活を始めた。
光代も自身の年齢を考え子供を早く欲しがっていたのもあり、結婚して2年目には長女を授かった。

光代とは特にその間愛を育んだとは言えないかもしれないが、普通に一緒に子育てをし、俺は仕事が終われば真っ直ぐに家に帰り穏やかな夫婦生活をしていたと思っている。

そんな頃にウチの会長が今までの大衆店では無い高級店を都内の一等地に構える構想をぶち上げ、社内に立ち上げの為の特別チームを作り、俺はそのチームリーダーを拝命した。店のコンセプト作り、物件探しから俺は会長の期待に応えようと重圧の中で働き予定の準備期間内になんとか高級住宅街として知られる都内の私鉄駅前に多額を投資した路面店舗を開店させた。

開店前夜、俺は夜中に何度も胃液を吐くほどの精神状態だったが店は部下達の努力もあり、コロナの影が忍び寄る微妙な時期にも関わらず上々の滑り出しを見せた。

しかしコロナの影響は徐々に店舗に忍び寄ってきた。どうも政府が何らかの対策を飲食店の営業にだすのではないかと業界で噂になり始めた。

会長からは連日、コロナ対策や今後についての連絡があり俺は尋常では無い事になる実感をし始めた。
店舗は未だ通常営業をしていたが、客足は激減し始めていた。

俺は不安がる店舗スタッフのケアの為に店舗に向かった。ラストオーダーまであと1時間程ていう時間に金を掛けた店舗入り口の重厚な扉を開けて上品な薄いベージュのスプリングコートを軽やかに羽織った女性客が入店してきた。

店舗入り口で店長がラストオーダーが小一時間で来ることのことわりを女性客にする。女性客はえ?閉店時間ということ?と少し苛立ったような声を上げる。俺はその声に反射的に厨房隅から女性客の前に歩んで、閉店時間まで1時間程ですがご案内申し上げますと女性客に丁寧に対応した。

女性客は俺ににっこりと微笑み、食事は良いの。少し軽いものを頂きながらワインを少し飲みたいだけだから、1時間も有れば充分だわと応えた。

コートをお預かりしますと告げると女性客はコートをすって脱ぎ、俺にしなやかな動作で手渡す。
俺は女性客を店内に案内しようとした店舗スタッフを視線で制し、女性客を自ら案内した。

コートをスタッフに預けて俺は女性客を窓際のテーブルに案内する。
俺が引いた椅子に女性客は座ると俺に振り向き、有難う。この時間にこんなお店に1人でワインを飲みにくる女って変かしら?とクスッと笑いながら言ってきた。

口元にはいたずらっ子の様な笑みをたたえ、振り向いて俺を見上げる瞳は涼しげだ、肩までの艶やかな黒髪。試すような視線を投げてきた美しい女。
それが俺の全てを壊した可奈との出会いだった。
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投稿者:(無名)
2022/01/26 13:17:51    (coW6mATf)
凄く興味があります。えっ今日投稿されたんですね、続き待ってます
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投稿者:としあき
2022/01/26 13:33:06    (vxKV8Ncn)
可奈はその日、軽い皿を幾つかとシャルドネをグラスで2杯程頼み、テーブル席から時折窓の外を放心した様に眺め、暫くすると携帯を取り出し何やら操作すると大きくため息をついてからスタッフに勘定を頼み済ませると出口で俺からコートを受け取り出ていった。

出口の扉を開けた俺にチラリと視線を投げ、有難う、遅くにごめんなさいね。今度はもう少し早い時間に寄らせて貰うわと言った。

少し酔いで美しい滑らかな頬を赤くしている可奈に俺はお近くですか?お車の手配をしましょうか?と尋ねると

良いの。近いから。風にも少し当たりたいし。今日は歩いて帰るから大丈夫。有難う。と俺に振り返りながら通りに歩を進めた。

振り返った可奈は少し涙ぐんでいるように見えた。
涼やかな瞳に薄い清楚なくちびる。
肩までの髪が春風にそよぐ。
有難う。店長さん?また寄らせて貰うからと扉を閉めて通りまで送ろうとした俺を真っ白な腕を軽く上げて制した。

俺は有難うございました。またのご来店をお待ち申し上げますと頭を下げた。

可奈はそのまま真っ直ぐに住宅街の方に歩き出す。
俺は可奈がしばらく先の角を曲がり見えなくなるまでその後ろ姿を見送った。

いたずらな瞳と帰り際に見せた儚げな涙目。
入店時の世慣れた感じと頼りなさげな帰路につく後ろ姿。
矛盾を孕んだ可奈は俺に強烈な印象を与えた。

俺はその日、閉店作業を手伝い、店長と残りコロナの状況や対策についてやり取りをして深夜帰宅した。

いつもなら遅く帰宅すると寝床を起き出し、夜食や寝巻きの世話をしてくれ、少しだけ俺のささやかな晩酌に付き合ってくれる女房だが、この日は最近言うことを聞かない子供の面倒を見るのに疲れていたのだろうか女房は俺の帰宅に気が付かず軽い寝息を子供の横で立てていた。

俺は女房を起こさないように、静かに冷蔵庫から缶ビールを取り出し食卓の灯を点けずに暗闇の中で缶を開けてビールを煽った。

帰宅の道中から可奈のあのいたずらな表情や帰り際の儚げな横顔が頭から離れない。
俺は可奈に出会ったあの瞬間から、可奈に既に入れあげていたのかもしれない。
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投稿者:としあき
2022/01/26 18:25:13    (vxKV8Ncn)
俺は可奈が店にいつ来るだろうかと考えていた。俺は店舗に常駐している訳では無い。
事実、今日もコロナを不安がる店長と話し合う為に久しぶりに店舗に顔を出しただけだ。

通常ならば週に一、二度様子を見に行くだけだ。
しかし俺はどうしても可奈にもう一度会いたかった。俺は真っ暗な食卓でビールを飲みながら店舗に頻繁に顔を出す理由を考えていた。

としあき。俺は出し抜けに大きな声で呼ばれ振り返ると寝巻きの女房が俺の背後に突っ立っていた。
何度も読んだのに貴方難しい顔して何か考え込んでいたから。いつ帰ったの?ごめんなさい気がつかなくて。何?どうしたの?電気も点けないでと言いながら食卓の電気を点ける。

俺は可奈の横顔をずっと思い出していたので少し女房に後ろめたさを感じて謝りながら缶ビールを一気に煽って俺ももう寝るから寝床に戻ってくれと女房に即し慌てて着替えて寝室に入った。

翌日、俺は通勤電車に揺られながら何となく可奈が今日も来る予感というか確信めいたものを感じていた。俺は電車を降りると店長に連絡し昨日話し合ったコロナ対策について纏めた資料を持っていき店舗スタッフに始業前ミーティングで共有したいと伝えた。

可奈が帰り際に言った今度はもう少し早い時間に寄らせて貰うわという台詞に可奈は早い時間に来るという予感がしていた。

俺は日中そわそわした気分で業務をこなし、店舗の始業ミーティングに出席する旨を伝えて昼過ぎには本社ビルを後にした。

遅めの昼食をとり店舗付近の競合店を何店舗か視察して時間を潰し、俺は夕方に店舗に入り事前に店長と打ち合わせをして始業ミーティングをこなした。
開店準備が整い看板に灯りを入れると俺は可奈が今にもあの扉を開けて入ってくるのでは無いかと高揚が抑えられなかった。

しかし俺の立場では店舗スタッフと一緒に店頭で彼女が来店するのを立って待っているわけにもいかず俺は事務所スペースに陣取りパソコンを開いていた。

来週あたりから自粛営業が始まるやもしれないと昨夜の報道を見た客が自粛前にという事で久しぶりに開店と同時に客の入りが良い。
昨日までの客入りを見て店長が人員を絞っていたので裏方がかなり忙しい様子だ。俺はホールの応援に入る。

スタッフの手の回らないテーブルの片付けをしていた時だった。すみません。入り口から女性の声がした。振り返ると入り口の扉前に可奈ともう1人の女性の二人連れが立っていた。

俺は動悸が早くなるのを感じたが何とか自分を落ちつかせて可奈達の前に進み出た。
俺は可奈達をたまたま今、空いたばかりの昨夜と同じテーブル席に案内した。

可奈は連れの女性に昨日来たの。美味しかったのー。ミクも絶対気に入ると思って!と明るい声で会話しながら席に着いた。

俺はテーブルに着いた可奈に連日のお越し有難う御座いますと伝えた。可奈はだって昨夜は遅くてゆっくり出来なかったし、食事も済ませた後だから全然食べられなかったけど凄く美味しかったし、友達と会う予定だったから思い切って連れて来ちゃったと溢れるような笑みを見せた。

可奈はアラカルトで何品かと昨夜と同じくシャルドネをオーダーした。俺は厨房にオーダーを通して昨日の上客が来ているからサービスで1品目が出る前に何か簡単な物を出してくれと料理長に頼んだ。

昔はホテルの料理長だった初老の男はこういうオーダーに気の利いた応えが出来る。手早く小綺麗なカクテルグラスに盛り付けた先付を出してきた。
俺は冷えたシャルドネを飲みながら友人と楽しげに話す可奈に店を気に入って頂いたお礼に店からサービスをさせて下さいとことわりカクテルグラスの先付を出す。

可奈はパッと辺りが華やぐような笑顔を見せてわー嬉しい。有難う御座います。綺麗ねー。とはしゃいでくれた。

俺はテーブルで給仕するたびに可奈に話しかけられて店舗スタッフでは無く本部の営業部長である事や昨夜は時間が無く満足なサービスが出来なかったのでまた来て欲しかったなどと話した。

可奈は俺の話に耳を傾け頷き、料理が美味しいと喜びの声を上げる。
食事が終わり会計を済ませた可奈に俺は名刺を渡し、何かあったらご遠慮なくお申し付けください、今後ともご贔屓によろしくお願いしますと頭を下げた。

可奈と友人は満足しきった様子で帰って行った。
俺は可奈にまた会えたこと、昨日とはまた違い今日は仕事の帰りなのか美しいスーツ姿の可奈を見たこと、何よりまたあの心惹かれるいたずらっ子の様な溢れる笑顔が見られたことに喜びを隠せなかった。

その日また閉店作業まで手伝い、従業員に忙しかった今日の仕事を労い深夜帰宅した。
前日と異なり今日は女房は起きて待っていた。開店前に胃液まで吐いていた俺の健康を女房は心配していた。駅前の牛丼屋で食べて帰った事を告げるとこんな時間に牛丼なんてだの、外食ばかりじゃ身体を壊すと例によってグダグダ言い始める。

俺は生返事を繰り返して女房を相手しながら缶ビールを飲みながら今夜の可奈の姿や声を思い出していた。

翌日、出社すると名刺にある会社のアドレスに可奈からメールが届いていた。昨夜のサービスへの礼と店が気に入ったので今後も利用しますといった内容だった。

俺はすっかり気分を良くして直ぐに可奈に当たり障りのない返信した。
送信してから午前中の業務に没頭し、昼過ぎにメールを確認すると可奈から返信が来ていた。

他愛の無いこのやりとりが俺の人生の落とし穴になるなどとはつゆほども思わず俺は嬉々として可奈から返信メールを開いた。

7
投稿者:(無名)
2022/01/27 16:47:25    (M5q6v7PW)
この後どうなったのか、今後の展開気になります!
続き楽しみにしてます♪
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投稿者:としあき
2022/01/28 09:55:25    (JB8kgz0z)
可奈からの返信は来月学生時代の仲良し6人組と毎年恒例の飲み会がコロナの影響で飲食店でやりづらい、可奈の自宅にケータリングや皆で持ち寄ったものを飲み食いして楽しもうと思っていたが、不味いケータリングを頼むならウチに頼めないかというものだった。

当時はコロナを甘く捉えていてケータリング事業やテイクアウトといったものにまだまだ消極的な時期だった。俺はこれを機会に会社にケータリングについて積極的になるべきだと提言しよう、そのテストケースと託けて可奈のホームパーティ依頼に応えてやろうと考えた。

俺は早速、テイクアウト、ケータリングについて資料を纏めた。あの時期にテイクアウトに出遅れた原因は会長だった。若い頃は何でも直ぐやれ、今やれの人だったが会長も歳をとって保守的になった。いっとき弁当屋展開に手を出して手痛い失敗をしていたのもあったのかもしれない。

会長は立ち上げたばかりの高級店がケータリングをする事がブランド化の流れに逆行すると懐疑的だったので店のイメージを壊さぬように料理人も食器も持ち込む付加価値をつけた高級志向のサービスをテストするとして渋々認めて貰った。

俺は翌日、可奈にメールを送りその旨を伝えた。
可奈はやはり思った通り裕福な暮らしをしていた、高級住宅街で連日、飲みに歩ける身分だ、学生時代の女友達と自宅でホームパーティ。
俺が料理人、スタッフや店の食器類を持ち込む大掛かりなケータリングを提案すると予算を心配していないお気楽な返信メールが届いた。

俺が最初にこの街に出店を決めたのは駅前の高級スーパーの惣菜売り場の目を疑うような高価な商品を見たからだ。その惣菜を値段も見ずに買い物籠にポンポン放り込む住人達。
それまで大衆店の商品開発でいかに安い食材を使ってどれだけ利益率を確保しながら安く提供出来るか、大の大人が大人数で1円、2円の話を議論していた俺には衝撃的な光景だった。

俺は思い切って言ってみた。可奈さんの考えてる内容のイメージやご自宅のテーブルやキッチンなどの環境を事前に確認したいので打ち合わせを兼ねてご自宅にお伺いしてよろしいでしょうか?

それまでメールをすると1時間以内には来ていた返信がこのメールを送信して2時間以上経って返信が無い。俺はやはり自宅に行くというのはやり過ぎだったか、何か変に思われたかもしれないと焦り始めた。返信が無いまま3時間経とうとした時に俺は失敗したと思い、パソコンに向かい何とか挽回する内容をメールしようと思案を始めると可奈から返信が来た。

用事があって出ていました。返信遅くなって申し訳ありません。明日の午後ならば空いてます。

可奈に直ぐに14時にお伺いしますと返信した。可奈からは承諾と住所を書いた返信メールが届いた。

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投稿者:としあき
2022/01/28 11:30:21    (JB8kgz0z)
翌日メールに書いてあった住所を訪ねると高級住宅街の小高い丘の1番上にあるひときわ大きい敷地の邸宅だった。
タイル張りの壁が邸宅を取り囲んでいた。格子のシャッターの奥の駐車スペースは3台分あり、そのうちの2台分に黒の大型SUV輸入車と赤い小型の輸入車が並んでいた。

俺は威圧感すら感じる石造りの門扉のインターフォンを鳴らす。可奈の声が答えると大きな鉄製の扉が大袈裟な音を立てて解錠された。

白いタイルと信じられないほどの大きさの一枚ガラスが印象的な豪邸に迎えられた。
可奈は品の良い薄い水色のワンピースを着て俺の家の居間が2つ入りそうな広大な玄関に立って微笑んでいた。

ごめんなさいね。わざわざ来て頂いてちゃって。どうぞ上がって。
うちの旦那が変わり者でスリッパが嫌いなの。だからうちはスリッパ無いのよ。ごめんなさい。そのまま上がってください。可奈はニコニコしながら出迎える。

早速キッチンを見て貰おうかしら。
ホテルのそれかと見がまうダイニングルームを抜けてキッチンに案内された。
ここて料理番組が収録出来るのではないかと思うほどの瀟洒なアイランドキッチン。

業務用レベルの海外製の大型冷蔵庫。正直言ってウチの店舗よりある意味立派なキッチンだった。
オーブン、ワインセラーはじめ調理機器、器具すべて上等なものが揃っている。殆ど使っていないのであろう築5年だという割にはほぼ新品の状態だった。

全く生活感の無いキッチン、広大で真っさらな調度品が溢れるダイニングルーム。可奈はここで旦那と2人どんな生活をしているのだろうか。

俺は食器棚に並ぶ食器やグラスを見ながら、凄いですね。正直言ってウチの店のものより全然、上等なものばかりです。店のものを持ち込むなんて烏滸がましかった、こちらのものを使いたいですが割ったり欠けさせたりするわけにいかないのでウチのものを使わせてくださいと伝え、馬鹿でかいダイニングテーブルで可奈と隣り合って座り入り時間や料理、予算について話し合った。

可奈は近くで見るとあの涼しげな目元も透明感のある肌、薄い上品なくちびる。そしてその場がぱっと明るくなるような明るい笑顔、全てが魅力的だった。

ワインは自宅のものを使いたいと可奈は言ってワインセラーの扉を開いて見せる。
ウチの店では扱えない高価なものばかりだった。
俺はその中に以前から一度呑んでみたいと思っていた銘柄を見つけた。

俺がそのボトルを手に取り眺めていると、可奈は私もこれが好きなのと言う。
いや、好きとかじゃなくて高価ですし、なかなか手に入らないですよね。私は呑んだことがありません。実物は初めて見ました。と言った。

日本で買うとプレミアがついて高いの。現地で正規で買うとそうでもないらしいの。旦那がこれが好きで現地の友人から沢山送って貰ってるのよ。
飲んでみる?とあの悪戯な笑顔を見せる。

俺はいやいやとんでもない!こんな高価なもの頂けないですよ。と辞退したが可奈は俺の言葉を無視してキッチンからコルク抜きを持ってきて開け始める。俺が恐縮していると手近なワイングラスを2つ取り出してワインを注いで俺に寄越した。

いや、仕事中ですし、それに旦那さんが留守の間にお邪魔してお酒を飲むなんてまずいです。と慌てていると可奈はクスクス笑い、意外と貴方、固いのねと俺の表情を覗きこむような仕草を見せる。

良いのよ。ウチの旦那さんは設計事務所やってるの先週から地方の現場に入りっぱなし。向こうは向こうで現地の業者達と毎晩好きなことやってるわ。
女友達と自宅呑みとか、その打ち合わせでワインの試飲なんて問題にならないわ。

開けちゃったし。と言って俺のグラスにグラスを合わせ乾杯と言うとワインを一口呑み、うん美味しい。と俺に笑ってみせる。

俺はそうですか。では試飲ということでとワインを口に含む。流石だ素晴らしい味わい。プレミアがついても買うだけの価値がある。俺は唸った。

これに合うとっておきのチーズがあるのよと可奈は冷蔵庫に向かう。
可奈とチーズをつまみにワインを呑み、色々な話をした。可奈は意外なことに亡くなった父親が大の阪神ファンだった影響でトラキチだった。俺も大の巨人ファンだった夫への恨みからアンチ巨人のシングルマザーの母の影響で阪神ファン。

高級住宅街一の豪邸で贅沢なワインを飲みながらの阪神談義は大いに盛り上がり、俺たちは気がつくとワインボトル2本を空にしていた。

可奈はご機嫌で楽しい!こんなにタイガースの話で飲んだの初めて。女友達は野球のやの字も知らないし、旦那はサッカー部でサッカーの話しかしないの。今日は楽しい!可奈はそう言うと笑いながら今日は仕事もうお終いにしたら?うん。飲もう!と立ち上がり3本目のワインを取りに行こうと立ち上がったが少しよろめいた。

俺は反射的に俺の方によろめいた可奈の身体を立ち上がり受け止めた。大丈夫ですか?腕の中の可奈に尋ねる。

可奈は俺を見上げて、大丈夫。桜井さんって背が高いのね。うちの旦那さんはチビなの。それに野球の話はしないし、ねー桜井さん、時々飲もうよ。私、今日楽しいな。もう息が詰まってたの、今日は楽しい。と言った。

俺がすみません。僕も楽しくてついつい飲み過ぎました。と言って可奈を座らせ今日は有難う御座いました、打ち合わせの内容は明日まとめてメールしますので確認して下さいと言いながら帰り支度を始めようと立ち上がろうとすると可奈は俺の腕を押さえて言った。

待って帰らないで、まだ。もう少しだけ居て。
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投稿者:(無名)
2022/01/28 14:04:37    (KslYgAZo)
素晴らしい大作!
目が離せません!
11
2022/01/28 17:12:00    (6Q18nxvU)
素晴らしい!
どんな展開なのかめちゃくちゃ気になります!
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