2022/01/28 11:30:21
(JB8kgz0z)
翌日メールに書いてあった住所を訪ねると高級住宅街の小高い丘の1番上にあるひときわ大きい敷地の邸宅だった。
タイル張りの壁が邸宅を取り囲んでいた。格子のシャッターの奥の駐車スペースは3台分あり、そのうちの2台分に黒の大型SUV輸入車と赤い小型の輸入車が並んでいた。
俺は威圧感すら感じる石造りの門扉のインターフォンを鳴らす。可奈の声が答えると大きな鉄製の扉が大袈裟な音を立てて解錠された。
白いタイルと信じられないほどの大きさの一枚ガラスが印象的な豪邸に迎えられた。
可奈は品の良い薄い水色のワンピースを着て俺の家の居間が2つ入りそうな広大な玄関に立って微笑んでいた。
ごめんなさいね。わざわざ来て頂いてちゃって。どうぞ上がって。
うちの旦那が変わり者でスリッパが嫌いなの。だからうちはスリッパ無いのよ。ごめんなさい。そのまま上がってください。可奈はニコニコしながら出迎える。
早速キッチンを見て貰おうかしら。
ホテルのそれかと見がまうダイニングルームを抜けてキッチンに案内された。
ここて料理番組が収録出来るのではないかと思うほどの瀟洒なアイランドキッチン。
業務用レベルの海外製の大型冷蔵庫。正直言ってウチの店舗よりある意味立派なキッチンだった。
オーブン、ワインセラーはじめ調理機器、器具すべて上等なものが揃っている。殆ど使っていないのであろう築5年だという割にはほぼ新品の状態だった。
全く生活感の無いキッチン、広大で真っさらな調度品が溢れるダイニングルーム。可奈はここで旦那と2人どんな生活をしているのだろうか。
俺は食器棚に並ぶ食器やグラスを見ながら、凄いですね。正直言ってウチの店のものより全然、上等なものばかりです。店のものを持ち込むなんて烏滸がましかった、こちらのものを使いたいですが割ったり欠けさせたりするわけにいかないのでウチのものを使わせてくださいと伝え、馬鹿でかいダイニングテーブルで可奈と隣り合って座り入り時間や料理、予算について話し合った。
可奈は近くで見るとあの涼しげな目元も透明感のある肌、薄い上品なくちびる。そしてその場がぱっと明るくなるような明るい笑顔、全てが魅力的だった。
ワインは自宅のものを使いたいと可奈は言ってワインセラーの扉を開いて見せる。
ウチの店では扱えない高価なものばかりだった。
俺はその中に以前から一度呑んでみたいと思っていた銘柄を見つけた。
俺がそのボトルを手に取り眺めていると、可奈は私もこれが好きなのと言う。
いや、好きとかじゃなくて高価ですし、なかなか手に入らないですよね。私は呑んだことがありません。実物は初めて見ました。と言った。
日本で買うとプレミアがついて高いの。現地で正規で買うとそうでもないらしいの。旦那がこれが好きで現地の友人から沢山送って貰ってるのよ。
飲んでみる?とあの悪戯な笑顔を見せる。
俺はいやいやとんでもない!こんな高価なもの頂けないですよ。と辞退したが可奈は俺の言葉を無視してキッチンからコルク抜きを持ってきて開け始める。俺が恐縮していると手近なワイングラスを2つ取り出してワインを注いで俺に寄越した。
いや、仕事中ですし、それに旦那さんが留守の間にお邪魔してお酒を飲むなんてまずいです。と慌てていると可奈はクスクス笑い、意外と貴方、固いのねと俺の表情を覗きこむような仕草を見せる。
良いのよ。ウチの旦那さんは設計事務所やってるの先週から地方の現場に入りっぱなし。向こうは向こうで現地の業者達と毎晩好きなことやってるわ。
女友達と自宅呑みとか、その打ち合わせでワインの試飲なんて問題にならないわ。
開けちゃったし。と言って俺のグラスにグラスを合わせ乾杯と言うとワインを一口呑み、うん美味しい。と俺に笑ってみせる。
俺はそうですか。では試飲ということでとワインを口に含む。流石だ素晴らしい味わい。プレミアがついても買うだけの価値がある。俺は唸った。
これに合うとっておきのチーズがあるのよと可奈は冷蔵庫に向かう。
可奈とチーズをつまみにワインを呑み、色々な話をした。可奈は意外なことに亡くなった父親が大の阪神ファンだった影響でトラキチだった。俺も大の巨人ファンだった夫への恨みからアンチ巨人のシングルマザーの母の影響で阪神ファン。
高級住宅街一の豪邸で贅沢なワインを飲みながらの阪神談義は大いに盛り上がり、俺たちは気がつくとワインボトル2本を空にしていた。
可奈はご機嫌で楽しい!こんなにタイガースの話で飲んだの初めて。女友達は野球のやの字も知らないし、旦那はサッカー部でサッカーの話しかしないの。今日は楽しい!可奈はそう言うと笑いながら今日は仕事もうお終いにしたら?うん。飲もう!と立ち上がり3本目のワインを取りに行こうと立ち上がったが少しよろめいた。
俺は反射的に俺の方によろめいた可奈の身体を立ち上がり受け止めた。大丈夫ですか?腕の中の可奈に尋ねる。
可奈は俺を見上げて、大丈夫。桜井さんって背が高いのね。うちの旦那さんはチビなの。それに野球の話はしないし、ねー桜井さん、時々飲もうよ。私、今日楽しいな。もう息が詰まってたの、今日は楽しい。と言った。
俺がすみません。僕も楽しくてついつい飲み過ぎました。と言って可奈を座らせ今日は有難う御座いました、打ち合わせの内容は明日まとめてメールしますので確認して下さいと言いながら帰り支度を始めようと立ち上がろうとすると可奈は俺の腕を押さえて言った。
待って帰らないで、まだ。もう少しだけ居て。