2021/02/10 22:02:25
(n0SoF5/a)
私のこと、今日見てどう思った?
志保は俺を品定めする様な目をして尋ねてきた。俺は戸惑いながら、貴方は分析のプロらしい。そんな貴方に何か答えると、まるで自分を裸にされる様で答えづらいです。率直に言えば感心しました。貴方は実に巧みに高額なセミナーの受講者を獲得していった。驚きました。と俺は答えた。
志保は少し間をおいて、そう。そんな風に見えた。と俺に言う。
志保が寂しそうに見える。俺は何か傷つける様な事を言ったのかと少し慌てて、あとはこないだの印象とはまたうって変わって自信に溢れた大人の女性だって感じました。と付け加えた。
志保は少し笑みを浮かべて有難うと答え、私ね本当は女優を目指してたの。だけど色々やってみたけど上手く行かなくて。悩んでた時にウチのセミナーに友達が誘ってくれて、セミナーを受けたの。
当時はこのセミナーの主催者、私の今は旦那が今日の私の役割をやっていて、私は実はセミナーにはあまりピンと来なかったんだけど、会場で旦那に声を掛けられてスタッフとしてやってみないかって言われて。
そうなんですか。旦那さんは今日来てなかったですよね?と俺が尋ねると志保はええ、旦那は今日は大阪で来週のイベントの打ち合わせと答えた。
結婚されてたんですか。合コンに参加されてたからてっきり未婚の方だとばかり思っていましたと俺が言うと、そうよね。既婚者が合コンなんか行っちゃ駄目よね。わたしもそう言って一度は断ったんだけど気晴らしにって半ば強引にと志保は笑いながら答えた。
志保は、ねぇ。この後予定あるの?と聞いてくる。俺が特にはと答えると、じゃあ呑みに行こうと誘ってきた。
俺が別に良いですけど、良いんですか?旦那さんは?と聞くと志保は笑いながら、あら?旦那にバレちゃマズイ事でもするの?と返してくる。
俺がいや旦那さんにバレてマズイ事なんかしないですけどと答えると、志保は、じゃあ良いじゃない?と俺を試すような瞳で言ってきた。
ねぇ、背中、下げてくれると志保が背を向ける。
白いドレスからのぞく志保の背中は眩いばかりの白さだ。俺は言われた通りにドレスの繊細なジッパーを慎重に下げる。白く滑らかな肌の背があらわになる。その美しさに俺は息を飲んだ。
腰までジッパーを下げ切ると、落ち掛けるドレスを胸に押し付けながら俺に振り返っていたずらな笑顔で有難う。て言った。
今、着替えちゃうから今度はあっちを見ていてと志保が言う。俺が出ていきますよと言うと、あっという間に着替えちゃうから一緒に出ましょ。だからあっち見ててと繰り返す。
俺は仕方なく大袈裟にターンして後ろを向いた。ドレスが床に落ちる軽い音がする。衣ずれの音をさせながら志保が着替えている。カチャカチャと音を立ててベルトをしたらしい。志保ははい。出来ましたと明るい声を出す。
俺が振り返ると濃いグレーのパンツスーツ姿の志保が微笑んでいた。
行こう!と俺の肩をポンと叩く。最近見つけた美味しい居酒屋さんがあるのと前を進む。俺は志保の後ろをついて行く。先程のクロークのスタッフを見つけてお疲れ様。後はよろしくと声を掛ける。クロークの男は俺にチラッと視線を投げた後、志保を見やり承知しました。お疲れ様でしたと頭を下げた。
少し遠いんだ。タクシー乗って行こう。志保はホテル前の車回しに進みボーイが開けるタクシーのドアからタクシーに乗り込む。俺も続けて乗り込むと志保は俺の腕に腕を絡ませてきた。
俺がいやまずいでしょと軽く絡めてきた腕を押さえて嗜めると志保は俺を覗き込んで、そういうの気にする人なんだ。と拗ねたような態度を取る。
そりゃそうでしょ。貴女は人の奥さんだし、まして公演先で誰に見られてるか分からないじゃないですかと俺が答えると分かりましたと拗ねた仕草で俺の腕から手を離しぷいっと横を向いて外を眺めて黙り込む。
暫く2人とも黙り込んだが沈黙に負けて俺が少しくらいなら許されるんじゃないでしょうか?と言うとぷっと志保は吹き出して少しくらいなら?と少女の様な悪戯な笑顔を見せて、これくらい?と指先を少し俺の腕につけてこれくらいなら許される?と聞いてくる。
俺がそれくらいは許されるんじゃないですかと答えると、じゃあこれくらいは?と聞いて今度は腕を掴んでくる。俺はそれくらいならと答える。
志保はクスクス笑いながら、じゃあこれは?と抱きついてきた。俺が慌てて駄目、駄目許されない、許されないと志保の身体を押しやると難しいなぁ、加減が難しいと笑う。俺もつられて笑う。志保はこれぐらいは今日は許されて頂戴とはしゃいで腕を絡めてきた。駄目?と俺を覗きこむ志保はどきりとするほど妖艶だった。
これで俺の流転の運命が決まっていった。