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2008/06/15 10:43:58
(JCFnsQWv)
主治医とのたった1回の過ちが、今でも娘と、亡きご主人への罪の意識とし
てトラウマになっているという。あの魔のひとときが。
弱さに付け込まれて犯された、というにはあまりに積極的に、性の技巧に身
を任せた、自分の中の女の業が。
「そうだったんですか、ひどい医者でしたね」
「私に隙があったんでしょうね、こんな恥ずかしい話」
しばらくの間をおいて、寂しそうに微笑みながら、顔を上げた。
「聞いていただいて、少し気持ちが楽になりました」
「そんなストレス、トラウマ、私が楽にします。一日も早く忘れるべきだ、
そんな過去」
少し腹立ちを込めてつぶやく。
「さあ、それではベッドに横になって」
「全身をリラックスさせるために、アイマスクしましょうか」
幸子さんが何の抵抗もなく、アイマスクを受け取る。
軽く両手を胸で組み、脱力して横たわる姿は、あたかも殉教を全うした信者
のようだ。
「それでは、先に取ってしまいますよ、さっきの痛いやつと、元になってる
ストレスを」
鎖骨下の胸の下のポイントを押さえる。
やはり痛さに身をよじる。
幸子さんの足元にひざまずく。
右のカカトと足首を両手で鷲掴みに握り、おもむろにひねり、脚全体を大き
くゆする。施術はこれだけだ。
2,3回大きく深呼吸をさせ、先ほどの痛みを確認。
「どうです?」
「えっ、それってさっきの痛いところ?」
狐につままれた口元の表情。
「胸のつかえ吐き出したから、消えたんです。もう過去なんて引きずって、
生きていく必要なんてない」
「嘘みたい、痛くない、信じられない。腕、あっ、腕もすんなり上がる」
「それに、あんなこと悩んでいた自分が、馬鹿みたい」
ここからは善意の整体師が、豹変する。