胸の内にしまって置くことが出来なくなってきたので、この場で吐き出します。
今から十数年前、東日本大震災の翌年頃の話です。
震災の為に延期になっていた、創立記念行事を兼ねて、全社員合同の慰安旅行がありました。
普段は参加しないのですが、育児も一段落したのと、震災で実家が被災したこともあって、心労が重なり、かなりストレスが
溜まっていた時期だったため、旦那が気を遣って「たまにはゆっくり温泉に浸かって、次の日も観光でもして気分転換してきたら?」と言ってくれたので、参加することにしました。
会場は大きな温泉ホテルで、私達の他に一般のお客さんも宿泊しているようでした。
部屋は他の営業所の女性社員と相部屋でした。
古株の人や、本社近くの営業所は普段から何かと集まったりしている為、知り合い同士ばかりみたいで、地方の営業所に勤務している私はなんとなく居心地が悪く、式典が終わった後、宴会が始まるまで時間潰しにお風呂に入り、浴衣に着替えて、宴会に出席しました。
やがて宴会が終わりそれぞれのグループが、ホテル内のスナックや、カラオケ、ホテルの外へ出て二次会へとバラバラになりました。
私はなんとなく取り残された感じで独り部屋へと戻りました。
ですが、部屋は鍵がかけられたままで誰も戻って来る気配もありませんでした。
私は仕方なく誰か知っている人がいればと思い、館内を散策しました。
ですが、後からカラオケや、男性社員しかいない中に入っていく勇気もなく、屋上階にあった落ち着いた雰囲気のバーで、少し時間を潰す事にしました。
やがて男性が話しかけてきました。
結婚して以来はじめて、家族のいない旅行だったのと、知らない人達ばかりの中で緊張していたのが、解けたからか急に酔いが廻ってしまったようでした。
話しかけられたときは、てっきり同じ会社の人かと思いなんとなく話しを併せていましたが、会社とは関係のない一般の宿泊客で、出張でたまたま近くに来ていて、同じ温泉ホテルに宿泊していたそうです。
男性(仮にSさんと呼びます)は大柄でメガネをかけていて、おしゃべりな感じではありませんでしたが、何処か重厚な喋り口調で、不思議とその言葉には抗えない不思議な力があるようでした。
三十分程も時間が経ったでしょうか、酔っていたからか、Sさんに催眠術の暗示をかけられたのか、私はSさんに手を引かれるまま、Sさんが宿泊している部屋へと付いて行ってしまいました。