番台の店主

今から10年前、市内の銭湯を初めて利用したとき、入浴を済ませて建物の外に出てきた当時43歳の妻は「イヤだった！」と顔を顰めた。
というのも、店は番台式で70代後半の店主が番台に座っていたからである。
脱衣場には目隠しの衝立もなく、店主には洗い場も含め女湯全体が丸見えだという。
番台の経験がなかった妻にとって、夫でもない男の目に裸を晒すことはショックだったに違いない。
だが、翌週になると妻は「一度見られたら、二度見られるも三度見られるも同じ」と言って利用を渋らなかったばかりか、その後も特に気にする様子はなく通い続けている。
それでも数年が経った頃、帰りの車の中で妻は「お爺さんたら、洗い場で私をジッと見るんだよ」とポツリ。
店主が浴槽の温度調整のために女湯の洗い場にも入って来ることや、女湯の利用客のほとんどが高齢者であることは、妻から聞いていた。
女の裸を見慣れたベテランの店主にとっても、美形で胸が大きく括れのある妻は「掃き溜めに鶴」で、欲望を抑えられなかったのだろうか。
「爺さんが元気なのはお前のお陰だよ！」と茶化すと、妻は「毎日、番台に座って女の裸を見ることが元気の秘訣なのね」と言って笑った。
この10年間における妻のカラダの微妙な変化についても、店主は知悉していることだろう。