かなり昔、もう10年近く前の話になりますが、私は自分の大切な妻をお金で売った事があります。
その頃の私は脱サラで営んでいたお店の経営に失敗し、家も追い出され、妻とふたり、明日の生活費にさえ悩む程のどん底状態でした。
当時26歳だった妻の美紀は、私が営んでいた店に大学生時代からアルバイトしていて、一流大学を卒業しながら、私のお店が好きだと言い、結婚までの腰掛け就職なんかしたくないから言って、就職もせず私の店でアルバイトを続けてくれた娘で、色白で美形おまけに細身ながら巨乳、面接に来た彼女に一目惚れした私でしたが、その頃の美紀は同じ大学の彼氏とラブラブで、美紀のバイト終了時間に毎日その彼氏が迎えにきていてとても手が出せない感じでしたが、大学を卒業してから、その彼氏も迎えに来なくなり、その頃から沈みがちだった美紀を食事に誘ったところ、意外にもアッサリ承諾、店もまだ軌道に乗っていた頃なので頑張って最高級の店に彼女を連れて行き、
彼女の悩みを聞いてやっていたところ、突然彼女が泣き出し、詳しく話を聞けば
やはりラブラブだったあの彼氏と別れた事が原因だった。
食事後も私は、ふたつのバーを梯子しながら、彼女の話を黙って延々と聞き続け、気付けば日付も変わっていて、かなり酔っていた彼女と そのままホテルにチェックイン、なる様になってから彼女を必死に口説き落とし、周りの友人知人のみんなから羨ましがられる美人妻をもらう事が出来ました。
その時に友人のひとりが冗談で言った
『おまえいつか罰当たるぞ』
その言葉が冗談で済まなくなる日が、そのたった一年後に訪れるとは思ってもいませんでした。
全ての原因は軌道に乗っていた店を、いきなり大きくした事にありました。
一旦軌道から外れたお店の経営を立て直すのは簡単でなく、みるみる内に経営は悪化、新店オープン一周年を待たずして店は閉店、私は美人妻をもらいながら、その妻を新婚一年余りで、一緒に路頭に迷わせてしまいました。
そんな私にでも妻は
『一緒に付いていく』
と言ってくれ、
『一瞬に頑張ってやり直そうよ』
と言ってくれました。
そんな妻に元気づけられた私は、とりあえず何でもいいから仕事しようと考え、求人誌を買ってきて、就職活動を始め、
妻に苦労を掛けてる焦りから、仕事内容よりも給料を選び、その中でも特別固定給のよかった会社の面接を受けました。
こんなに給料がいいのに面接を受けた誰もがみんな通る、それにはそれだけの理由がありました。
そこは飛び込み営業をする営業会社で、固定給だけでも30万、営業成績によって他に固定給以上の歩合給が付いて、頑張って少し上にあがると固定給だけで50万~80万もあり、総額では100万以上もらってる人も何人もいて、厳しいのを覚悟の上で私はそこで頑張る事を妻に伝えまして。
頭のいい妻は私のその就職に100%賛成出来ないという感じでしたが、真剣に頑張ってみたいと言う私に折れ、最後は応援してくれました。
その会社は給料以外、福利厚生面の待遇も良く、独身者にはワンルームマンションの寮、既婚者には 3LDKの社宅が用意されていて、面接時に私が社宅を希望すると、入社前には用意してくれていて、私と妻はそのマンションに引っ越しをしました。
そして仕事が始まりました。
その会社の営業は想像を遥かに超えた厳しさで、毎朝の営業報告では朝から毎日誰かが怒鳴られていて、夜も9時10時まで営業に周り、それでもとれなければ朝まで帰ってくるなと言われました。
その会社は上下関係も絶対で、先輩後半というよりも営業成績の良い者が、優位に立って踏ん反り返り、営業成績の悪い者はカス扱いでした。
一旦、成績が上がり優位に立てても、成績が下がればカス扱いでした。
私が配属された営業チームのチームリーダーはスグにキレる人で、みんなその人の機嫌を取るのに必死でした。
チームリーダーは、その営業チームでは絶対の権限があり、逆らったらそのチームにいられなくなるので、みんなチームリーダーに嫌われない様に必死に機嫌をとり、そのせいかほとんどのチームリーダーはチームで踏ん反り返っています。
私もそこで生きていく為、嫌々ながらスグにキレるというチームリーダーの機嫌をとり続けました。
どんなに仕事が遅くなって疲れていても、仕事終わりにチームリーダーが飯でも食いに行くかと言えばチーム全員でお供し、飲みに行くかと言えば、チームリーダーが帰るというまで、とりあえずは絶対帰れず、朝までの付き合いも普通にありました。
勿論、そこで飲み食いした金は全て割り勘、チームリーダーが奢ってくれるというものではありませんでした。
そんなチームリーダーに一切気を使わなくていいのが、日祝の休日で、私にとって最も気の休まる一日でした。
そんなある休日、妻とたまにはふたりで一緒に買い物にでも行こうという話になって近所のショッピングセンターへと出掛け、ふたりでイロイロ見てると、
『○○じゃねぇか』
といきなり後ろから声を掛けられ、振り返って見ると、そこには休日だけは一日絶対に会いたくない
と願うチームリーダーが立っていて、隣には他のチームのチームリーダーもいて、私は妻の前で情けなくもペコペコ頭を下げるハメになりました。
よく考えるとふたり共独身、せっかくの休みに男ふたりでこんなとこに来てるのを見ると、どうやらふたり共彼女すらいないんだなぁと思うと、唯一優越感を持てる気がして、妻をふたりに紹介、妻もちゃんと挨拶してから、なんとかしてこの場を離れ、ふたりとわかれ様と間合いを見ていましたが、
チームリーダーから
せっかくだからお茶でもするかの言葉が…
断る事も出来ずに、妻と共にチームリーダーに付いて行き、近くの喫茶店へ入り、結局大して話題も弾まぬまま、店を出てなんとかふたりと別れ、私はホッとしながら妻とふたり自宅へと帰りました。
翌日、会社に行くと私の妻が美人だという話が飛びかっていて、チームリーダーが流したのがスグわかりました。
その後、チームリーダーにも直接
『あんな美人の嫁どこで見つけた?』とか言われ、私も悪い気はしなかったが、
『あんなの大した事ないですよ』
と一応謙遜した私の言葉が、何故かチームリーダーの逆鱗に触れ、
『あいつはエラソーに格好つけやがって』
となって、それから暫く私はチームリーダーからの陰湿かつ執拗なイジメを受け続け、ノイローゼ状態になるまで追い詰められました。
かといって、妻に絶対に頑張ると言った手前もあって妻にも相談出来ず、社宅に入ってる事もあって、簡単には辞める事も出来ない状況から、私はどうする事も出来ず、ただチームリーダーのイジメに堪えるだけでした。
しかし、チームリーダーの陰湿なイジメは半端になく執拗で、数ヶ月間ほとんど無視され続け、飯や飲み会にも私だけ全く誘ってはもらえず、チームの営業作戦とかも私だけほとんど聞かせてもらえませんでした。
それでも営業成績さえ上げれば会社からは認められ、もう少し伸ばせばサブリーダーも夢じゃないという話になり、そうなるとチームリーダーもなんかヤバイと思ったのか、急に何もなかったかの様に普通に話掛けてきて、その次からの飯や飲み会には私も誘ってもらえる様になりました。
私にとってはなんとかヤレヤレの状況に戻れホッとしたのですが、チームリーダーの恐ろしさをつくづく身をもって知らされ、二度とあんな目に合いたくない思いで、今まで以上に必死なってチームリーダーの機嫌をとり、言葉ひとつも気を使って二度と機嫌を損ねる言葉は発しないと自分に誓いました。
そんなチームリーダーにチームとは別に個人的に飲みに誘われ、行くと前にショッピングセンターで会った別のチームのリーダーも一緒でした。
気を使いまくるし嫌だなと思いながらも私は、その気持ちを微塵も見せず、チームリーダーふたりのお付き合いをし、割と高級な割烹料理店で食事をしてから、チームリーダー行きつけの女の子のいるラウンジで暫くそれなりに盛り上がりました。
それらの店の金は、チームリーダーふたりが出してくれ、私は恐縮しながらふたりに礼を言うと、この続きはおまえの家でしようと言い出し、妻はもう寝てますからと言いたい気持ちを結局また逆鱗に触れるのが怖くて言えず、寝てる妻を電話で起こして謝りながら、これからチームリーダーふたりを連れて帰るという私に、妻は文句も全く言わずに
『わかった、大したモノは作れないと思うけどなんか作るね』
と言ってくれました。