(episode 1)出会い
その日、私はいつものように出勤した。いや、正確には出勤するフリをして家を出た。妻に悟られないようにするためだ。いつもと同じ時間に家を出て、いつもと同じ時間の電車に乗った。そして、いつもは降車する駅を通過した瞬間から、私の新しい物語が始まった。
(12/5)約束の日
待ち合わせはJR上野駅。アトレ内のスターバックスに10:00。約束の時間よりも20分早く着いてしまった。12月だと言うのに随分と暖かい。今日はコートは必要なかったと後悔した。少し早いが珈琲でも飲みながら彼女を待つことにした。
店内は意外に混雑していて、空いている席がほとんどない。運よく奥に1つだけペア席が空いている。
(よし、今日はツイているかもしれない)
そう呟き、ペア席を確保した。オーダーを済ませ、席に座りホットコーヒーを一口飲むと、汗が吹き出してきた。汗が吹き出したのは今朝の気温だけが原因ではない。きっとアドレナリンが大量に出ているのだろう。
(アイスにしておけば良かった)
ハンカチで汗を拭いながら、出会いを前に冷静な判断が出来ていないことを自戒した。
落ち着きを取り戻し店内を見回す。年齢と身長だけが頼りだ。直前のメールから、彼女の服装は黒のニットにベージュのロングスカートということがわかった。
それでも、見当たらない。焦る気持ちを押さえながら探すものの、一向に見当たらない。そうこうしてる間に10時を回ってしまった。彼女も、もう到着しているらしい。私の服装は紺色のスーツと伝えている。彼女も私を見付けられないのだろうか?よく見ると、そこかしこに紺色のスーツが居る。会社員は大抵紺色のスーツを着ているものだ。
これではお互い分からないだろうと思い、慌てて居場所をメールした。
(奥の凹んだ場所の2人席に居ます。隣は学生と外国人です)
すぐに返事が返ってきた。
(わかんな~い)
ヒントが全く通じていない。私は席を立ち、出口の方に目を向けた。
ひとりの女性と目が合った。直感的にお互い間違いないと感じた。巡り会えた安心感と、恥ずかしさからなのか、彼女は少しはにかんだような笑顔で近付いてきた。
『はじめまして。レッドさん?』
「あ、はい。はじめまして」
少し照れくさい。
「ここ、わからなかった?ほら見てごらん、学生と外国人」
私はそう言って彼女に目で合図した。
『ほんとだ~(笑)』
「珈琲頼んでくる?」
『今混んでるから、空いたら....』
そう言って彼女は席に座った。
長い髪が印象的だった。腰まで伸びた巻き髪が女性らしさを引き立てている。座っていると30センチはあるだろう身長差は感じない。世間話をいくつか交わした後、彼女が私に質問した。
『仕事は何をやってるんですか?』
彼女は、少し私を怪しんでるようだ。
「普通の会社員ですよ」
そう答えるが、普通の会社員は平日の昼間にこんな風に人妻と会ったりしない。
『普通....じゃないかと....』
完全に怪しんでる。
「いや、普通ですよ」
もう、私も必死だ。それがむしろ怪しさを増幅させた。
私の場合、ある程度自分の休みを決められる。なので、会う日はいつでも大丈夫!と大見栄を切ったのが仇となってしまった。
その後、仕事のこと、勤務先のことを伝えると、疑いは晴れた。そして彼女は飲み物をオーダーするためにカウンターに向かった。私は、初めて自分の会社に感謝すると共に、安堵した。
彼女が注文を済ませ戻ってくるとお互いの過去の体験について語りあった。彼女と会話する中で、驚いたことが2つあった。
1つは、二人の体験が非常に似ていることだ。もちろん別々のパートナーを相手にしていた体験だが、かなりの部分で一致していた。それは二人の趣向の一致を意味していた。
もう1つ驚いたことは、彼女はそうした特殊な趣向の話を、結構普通に話すのである。右隣の外国人は気にしなくていいだろう。内容がわかるはずがないからだ。しかし左隣の学生は、よく見るとペンが止まっている。二人の会話が、あまりにも刺激的な話で、どうやら勉強どころではないようだ。学生には申し訳ないことをしてしまった。
「ランチタイムにしようか?」
『はい』
二人はスタバを出た。
小春日和という言葉がまさに当てはまるような暖かさだ。駅を出て目の前にある「さくらテラス」に向かう。
「ここなら、いろいろあるから。なに食べようか?」
『あっ!これ食べたい!』
彼女が指差したのは梅蘭やきそばだった。かた焼きそばの中にエビチリや海鮮炒めなどが入っている。確かにこれは旨そうだ。
「じゃあ、ここにしよう!」
昼前だったので、待たずに入れた。運ばれてきたやきそばは、思った以上にボリュームがあり、そして美味しかった。美味しそうに食べる彼女を見ながら、私は考えていた。
本当に彼女はさっき話していたようなことが出来る女なのか?一見するとそんなことをしそうに見えない。しかし、私の経験上、ドM女はそういう女が多いものだ。一方で、自分がドMとか言っているような女は、単なる淋しがり屋か、構ってちゃんだ。ドM女は自分の素性を必死で隠そうとする。悟られまいと自分を偽るのだ。それでも仕草、表情、言葉遣いに現れてしまう。そういったものが、彼女から少しずつ伝わってくる。
一方で彼女は私をどう見ているのだろうか?パートナー候補として見てくれているのだろうか?私は、そんなことを気にしながら彼女の仕草や表情を観察していた。
二人は食事を終え店を出た。
「少し、お散歩しようか?」
『はい』
彼女は、私の提案に対し上目遣いでそう答えた。私はそんな素直な彼女を愛おしく思い、彼女の手を握った。坂を上り動物園の方に向かう。結構人が多い。博物館や動物園に向かう人達、観光客も沢山いる。散歩しながらお互いの家族のことや子供のことを語り合った。大河ドラマで話題の「西郷どん」の銅像を撮影する人、「フェルメール展」に並ぶ人達。そんな人達を横目に二人は野球場の脇にある小さなベンチに腰掛けた。
「寒くない?」
そう言って私はコートを彼女の膝に掛けてあげた。と同時に彼女の太股の上に手を置いた。もう触れずにはいられなかったのだ。彼女は微笑んでいる。
彼女の話を聞けば聞くほど、彼女がM気質であることがわかった。若い頃、見知らぬ男に電車で痴漢され、そのままトイレに連れ込まれ犯されてしまったこと。昔のパートナーに命令され、様々な変態行為を強要されたこと。そんな話を聞くうちに、私は無性に彼女を自分のパートナーにしたいと感じ始めた。
私はニットの上から彼女の胸に触れた。触れた瞬間、彼女はビクっと反応した。さっきまで微笑んで話していた彼女とは、まるで別人のようだ。私の指は、突起物を探すかのように、さらに這い回った。彼女は頬を赤らめ俯いている。そして時折ビクっビクっと反応している。
彼女のM気質を見抜いた私は、ニットを少しずつ捲り上げ、ブラをさらけ出した。目の前は無人の野球場とは言え、後ろを沢山の人達が歩いている。
『もう、許して下さい....』
彼女が音を上げた。私もここで彼女に嫌われたらと思い慌ててニットを下ろした。安心したのか、彼女が再び微笑んだ。そんな彼女を見て、決して嫌がってるのではないことがわかった。
私は彼女の手を掴むと、コートで隠された私の股間へ導いた。
「きみのせいで、こんなになってしまったよ」
再び俯きはじめ、彼女が抵抗しないとわかると、私はファスナーを下ろし勃起したぺニスをスラックスから出した。
「握ってごらん」
コートの中とは言え、普通ではない。ましてや、今日会ったばかりの女性に勃起したぺニスを握らせているのである。頬を赤らめ俯いている彼女の目はどこか虚ろだ。
時間に余裕があれば、微かに震える彼女の手を取り、このままホテルに行きたいところだが、今日のデートは14時までだ。
「次のデートでは、きみを抱きたい」
『はい....』
彼女は既に私を受け入れる覚悟が出来ているようだ。
『いつ会って貰えますか?』
私は、慌ててスケジュールを確認する。
「えっと....」
年末のスケジュールはいつもと違う。この日、いや、こっちの方がいいか....。自分のスケジュールと妻のスケジュール、そして彼女スケジュール、それを頭の中でシンクロさせていく....
『ちっちゃくなっちゃったよ』
彼女が微笑みながら私に告げた。スケジュール調整で頭を使ったせいだ。今度は私が俯き頬を赤らめた。
おとなしくなった息子をしまい込み立ち上がると、隣の席にいた二人のサラリーマン風の男達が不審そうな顔でこちらを見ていた。やはり、我々は相当怪しい動きをしていたのだろう。
時計を見ると、もう約束の14時を過ぎていた。二人は駅に向かった。1週間後にセックスをすることを約束した。お互いの趣向の一致は確認出来た。あとは身体の相性の確認だけだ。こればかりは実際交わらない限り分からないものだ。彼女はセックスをとにかく長い時間したいと言った。そして彼女は1つだけお願いがあると告げると、私見つめながら、こう言った。
『次会うまで(精液を)出さないで貰えますか。私の為に溜めておいて欲しいんです』
彼女はそう言うと、恥ずかしそうに目を伏せた。
彼女を駅まで送り、そして改札で別れた。改札の中に入って振り向く彼女が、少し淋しそうに見えた。雑踏に消えていく彼女を見送りながら、私は決心した。
(彼女を必ず俺の女にしよう。そして俺好みの女に調教していこう)
そして二人は1週間後、再び会うことになる。身体の相性を確認する為に....
そして彼女の本性を私は知ることになる。
(episode 2)初めての交わりに続く