今思えば、歌の文句じゃないが俺がそんなにモテる訳無いよってやつだった。俺が払った代償は脇が甘いと世間に笑われて終わりなんて生易しいものでは無かった。全て失った、そう本当に俺の人生の根こそぎ全て。
俺は中堅外食チェーン店の営業部長をしていた。両親が早くに離婚し長男の俺の下に妹が2人、シングルマザーになった母は昼夜を問わず働いて俺たち兄妹を育てた。
母の苦労を間近に見て育った俺は早く世に出て稼ぎ母を楽にしたかった。中学を卒業すると普通高に行けという母の希望を断り夜間高校に通いながら今の会社が当時俺たち家族の住んでいた町の幹線道路沿いにオープンしたファミレスに毛が生えたような和食店で働き始めた。
元々は洋食系の店舗展開をしていたうちの会社が始めた和食第一号店だった為、当時社長で今は会長の高橋会長が開店初日から連日自らホールを仕切るグループ上げての肝入り店舗。
その店舗の最年少スタッフの俺の家の事情を知る会長は自らがやはり高卒の叩き上げでここまでグループを大きくした男であり、自分の生い立ちに近い俺をことさら目を掛けて可愛がってくれた。
飯食っているかと聞かれて飯に連れて行って貰ったり、時には母に何か買ってやれと他の従業員には見えないところで小遣い銭を俺に握らせた。
父親の存在を知らずに育った俺には会長は頼もしく父親の様に思えて、いつからか会長の役に立ちたいと思うようになり、必死に仕事を覚え開店から半年後にはホールの備品の発注等少しづつ責任ある仕事を任されるようになっていった。
第一号店が上手くいき、和食の多店舗展開を始めた会長が開店当初以降はひと月に二度程来店する程度だったが来店のたびに俺を呼び近くの喫茶店で近況を聞かれて頑張れと励まし、美味いもんでも家族に食わせてやれと小遣いをくれるのだった。
俺は店で働いて夜間高校を卒業すると会長の勧め通りにウチの会社に就職し、ちょうど4月に開店する新店舗の店長として店舗スタッフとしてホールでバイトと同じ仕事をする同期入社とは全く違う環境で社会人生活をスタートさせて貰った。
それから20年近く会長のお気に入りとして俺は会長の恩に報いたい一心で働き続けた。
その会長を俺は裏切った。
俺の人生は1人の人妻と出会った事で堕落し、全てを失ったしまった。