俺はいっとき少しアブナイ女と付き合っていた。アブナイにも色々種類が有るが、付き合った志保はメンタル系のアブナイ女だった。
出会いは学生時代の悪友らとの合コン。悪友の1人、俺とは1番気の合う田中の飲み友達だという女が連れて来た3人の女のうちの1人が志保だった。
志保はいわゆる男好きするさっぱりした性格のタイプの女だった。他の女性メンバーが合コンと言う事でカワイイ系のファッションの中、スラッと高い背に映える短い丈のジャケットに足の長さを強調するタイトなジーンズにヒールの高いロングブーツ。肩から使い込んだ革製のトートバッグを提げて腕にはボーイズサイズのダイバーズ。肩までの美しい栗色のボブカット。目が大きくて鼻筋の通った美人だった。
志保は女性陣の中で一番早く居酒屋に約束時間10分前に現れた。
入ってくるなり店主に俺の名前で予約してる席は何処かと尋ね、店主が俺たちのテーブルを指さすと真っ直ぐに入ってきた。
こんばんは。はじめまして佐藤志保です。今日はよろしく。まだ誰も来てないんだ?
志保は最初に気がついて手を振った俺の正面に座りテーブルの下にトートバッグを押し込みながら俺たちに尋ねる。
俺が、うん。まだ来てないけど、追々皆来るでしょと答えると志保は笑いながら、こういうのは女は遅れて来るもんだと思ってるんだよね。勿体つける程じゃ無いんだけどねー。と笑った。
早めに着いた俺たちが、すでに生ビールを頼んでいるのを見ると志保は店主に自分の分も先に出して下さいと頼んだ。
程なくして志保のビールが届き俺たちは乾杯した。美人の志保が来た事で男達ははしゃいでいる。皆が口々に矢継ぎ早に何をしている人?何処に住んでいるの?今日は誰からの誘いなの?
志保は笑いながら、そんないっぺんに答えられないわ。プロフィールの紙でも印刷して持って来れば良かったと言ったあと、ここから電車で20分程の私鉄駅近辺に住んでいる事、今日は田中の飲み友達のレイコから誘われた事。レイコが仕事の取引先でもあるので無下に断れないので今日は来た事などを話した。
話をしていると志保の解説通り他の女性メンバーが約束時間の5分遅れでバラバラと入って来た。俺たちは改めて乾杯をした。
田中の飲み友達と言う女性達は皆酒が強く、話も上手で俺たちは大いに盛り上がり、2軒目に行こうと言う流れで俺の知り合いのカラオケが歌える店に行く事になった。
2軒目ではすっかり打ち解けて、お互いの仕事などについての話になった。志保さんは何の仕事してるの?志保は笑いながらインチキなセミナーの講師と答えた。
俺たちは意外な答えに盛り上がる。何?何の講師やっているの?
だからインチキなセミナーの講師って言うか。
何、何それ?もともと俺たちは学生時代から一緒に馬鹿を繰り返して来た仲間だスタイルの良い美人、インチキなセミナー。そのキーワードは俺達を引きつけるには充分だった。
お調子ものでおっちょこちょいの俺たちの中でも、1番のおっちょこちょいである田中が、どんなセミナー?何処でやっているのと志保に食い付いている。うーん。何だろ?簡単に言うと自己啓発系かなと志保が面倒そうに答えた。
えー俺行きたい!かなり酔いの回った田中が大きな声で志保に言う。
志保はえー。良いですよ。田中さんはそんなの受けなくても全然大丈夫そう。わたしもあまり知り合いとか入れたくないし。と志保が先程までの歯切れの良さが全く無い口ぶりで答える。
田中はなお食い下がる。俺行く、行く。どうやら田中は志保を狙っているらしい。セミナーに行けば、一緒に過ごす時間が増えてチャンスも増えるとでも考えているのだろう。
結局根負けする形で志保は田中とLINEを交換し、後日セミナーのパンフレット的なものや申込用紙を送ると言う事になった。
俺はそういったセミナーやら胡散臭いものが嫌いで極力関わらない様にしているので、美人の志保に興味は有ったものの、田中と志保のやり取りを冷めて見て、その日を終えた。
合コンの翌日から俺の仕事で大きなトラブルが起こり2週程仕事に追われ、俺は合コン、志保の事を忘れていた。トラブルを解決してひと息ついた頃、合コン以来会っていなかった田中から連絡があった。
お疲れ。久しぶり。今日あたり飲みに行かないか。俺は連日のトラブル対応からやっと解放された事もあり、良いね。丁度今夜あたり飲みに出たいと思っていたんだ。どこにする?と返信した。
田中は、合コンをやった馴染みの店を指定して来た。俺は承知して、仕事をこなした後、店に向かった。店に着くと田中は先に着いていて既に何杯か呑んで顔を赤くしていた。
よお。久しぶり元気かよ?田中が俺にコレ旨いぞと野菜の和え物のようなお通しを俺に勧めながら言ってくる。俺は店主に生ビールを頼み、田中お勧めの和え物を食べながら元気じゃないよ。トラブル続きで疲れちゃったよと答え、店主が運んできたビールで田中と乾杯した。
乾杯した田中は含み笑いをしている。何だよ?何が可笑しいんだ?気持ち悪いやつだなぁ俺が言うと田中はいやいや、こないだの志保ちゃんのセミナー行って来たんだよと笑いながら答える。
えっ?本当に行ったのお前。馬鹿だなぁ。と俺が言うと田中はいやいや、お前も行った方が良い。無茶苦茶笑えるぞアレ。何て言うのかなースゲーわ。人の使い方って言うかコントロールの仕方みたいの分かって面白いわ。勿論、これ以上行く気もないし、今回は体験コースで本会員だのになる気はさらさら無いがとにかく面白い体験だったと興奮気味に俺にアレコレ話した。
お調子ものの田中だが、実は地元では10軒程の飲食店や、地ビール製造所、地元野菜のネット販売などを経営するやり手だ。俺も畑は違うが自営業をやっていて、田中からは学ぶ事も多く一目置いている。
啓発セミナーに行って、内容では無くその運営方法や運営側の人間観察、受講者の影響のされ方の方を面白がっている田中はやはり視点が普通の人間とちがう。俺は楽しそうに話す田中を見てセミナーに興味を持ち、好奇心も手伝ってセミナーに参加する事を決めた。
俺は田中からセミナーの連絡先を聞き、翌週末田中が行った体験コースを受講する事にした。
俺はセミナーで受講者と講師の形で志保と再会し、志保の事情に深く関わり異常な体験をする事になる。
つづく~