私は単身赴任中のサラリーマンです。
旅話をするBBSでの会話を一つの趣味にしています。
最近の話なので女性が特定されないよう、私の赴任場所、女性が住んでいる地域、彼女が記載した内容の一部は記載しません。BBSには書いていない個人情報は匿名のため問題ないと考えてある程度記載します。
BBSで女性(仮名菜穂)が書いた主たる内容は、ある地方へ一人旅をしたいのでおすすめの場所を教えて欲しいというものでした。
その地方とはまさに私が単身赴任中のこの地のことですし、私も赴任中にこの地域を散策しておこうと色々回っていますから、お勧めしたいところが頭にたくさん浮かんできました。
そして、それをBBSに書くことだけで楽しんでいました。
私以外にも数名の男女が菜穂さんの書き込みに対してレスを書いていました。
1週間ほどすると菜穂さんから私がBBSに登録しているアドレスにメールが届きました。
私はメールでいくつか提案をしたり、その反応を待ってまた手直ししたりを繰り返していました。二人で旅行のスケジュールを組むような感じでとても楽しめました。
連休の中でのたった2泊の旅行なのでコースのやりくりは大変でした。
菜穂さんは中学の教諭だということ、お子さんが1人いらっしゃることなどもわかりましたし、私も自分のことを色々書いたので、会ったこともないのに次第に旧知の仲のような感覚になりました。
旅行が実行されるまでに2ヶ月ちかくあったので、色々なやりとりができ、お互い打ち解けている部分も多くありました。
そのせいか、菜穂さんからの申し出で、こちらに来られた日に昼食をご一緒する事となりました。
新幹線の到着を待ちながら私は約束した店で待機していました。
「駅につきました。すぐお店に向かします」
のメールに、
「店の中にいます」
と返事をすると、しばらくして店の入り口にキャバ嬢が歳を重ねたような派手な中年女性が入ってきました。
ちょっと想像とちがうなと思いながら手を振ると、その女性は変な顔をして別の空き席に行きました。
私がホッとして目をメニューに移して苦笑いしていると人の気配がしたので顔を上げました。するとそこには色白の飾りっ気は無い素敵な女性が立っていて、目で「あなたですか?」と伝えてきたので名乗ると、その人が菜穂さんでした。
「実はあそこのケバい女性だと勘違いしまして」という話から入ったら菜穂さんは大笑いしてくれて、場が和んで楽しい食事となりました。
食事のあとは場を喫茶店に移して旅行の話やBBSの話で盛り上がりました。
菜穂さんは私に連絡してくれた理由について、こう説明してくれました。
「私の書き込みに何人もの男性がお返事をくださいました。どの方も必ず『自分が案内します』と書かれてました。でも、あなただけがそれを書かずに旅の提案だけをしてくださいました。私に会いたがらなかったのはあなただけです。だからあなたに興味を持ってメールしました」
と。
菜穂さんは仕事上の悩みがあるけれど旦那さんがそういう事については一切話を聞いてくれないこともあって、気分転換のためと仕事に役立てるためとで旅行を決行したそうです。
上品で教養のある話し方と笑うととてもかわいい色白の顔、体を動かすとぷるんと揺れる少し大きな胸。僕は菜穂さんの魅力に圧倒されました。
喫茶店を出ると菜穂さんはキャリーバックを引っ張って一人旅に向かしました。
一目惚れみたいなものです。それから私は菜穂さんのことばかり考えてしまいました。でも、菜穂さんからメールは来ませんでした。
喫茶店で撮った2ショットの記念写真を眺めては、「素敵な人だったなぁ。旅行楽しんでるかなぁ。もう会えることは無いんだろうなぁ」と思って、ため息をついたりしてました。
菜穂さんの一人旅はぐるっと回ってこの地に戻ること無く帰るコースでしたから、会えることはもう無いと思っていました。
翌日も、メールは来ませんでした。
私は連休でもやることがなく、ぼーっとしていましたから余計菜穂さんのことを思い出してしまいます。
きっと旅行を楽しんでいるだろうと思うことにしました。
菜穂さんの旅行最終日の昼前にメールが届きました。たぶん帰路につくお知らせだろうと思ったのですが、そこには、
「今お時間空いてますか?」
とあります。
空いてるには空いてるのでそう返事を返すと、
「近くまで来てます。いらっしゃらなければ帰ろうと思ってました。一昨日お聞きしたスペシャル定食たべたいです」
とのこと。
それは、私のマンションから5分の所にある駅に隣接したレストランの定食のことです。私の話をちゃんと聞いていてくれたようで、私の最寄り駅を菜穂さんは覚えていてくれました。
私は急いで駅の改札まで迎えに行き、レストランに案内しました。
菜穂さんはスペシャル定食を食べながら、一人旅の結果を早口で話してくれました。そして、
「今までのやりとりや一昨日のおしゃべりが本当に楽しくて、どうしてもまたお会いしたくて、戻って来ちゃいました。何も言わずに来てみてお会いできたらそれは運命で、お会いできなかったらそれも運命かなと思って連絡せずに来てみました。」
と、私を見ずに定食を見ながら言いました。
「私も菜穂さんに会いたかったです。変な話、送り出してからずっと菜穂さんの写真を見てました」
「本当ですか。私もです」
そう言ってまだ残っている定食をほおばっていました。
「写真見ながら、菜穂さんてすてきだなぁって思い出してました。こんな素敵な女性を落とせる男になりたいもんだなんて、思ってました」
ととんでもないことを口走ると、菜穂さんは私の顔を見みながら、ビックリすることを言いました。
「私、もう落ちてます」
(つづく)