「えっ、あれって……○○ちゃんママじゃん!」
俺はしがない営業マン。
お客のドタキャンを食らう事は多々ある。
ドタキャンを食らった時、パチ屋の駐車場で時間を潰してるんだ。
何故パチ屋かって?
それは不倫カップルが駐車場片隅で落ち合って、平日昼間から車内でイチャイチャしてるからだ。
結構な確率で色々な不倫カップルに出くわせるから、楽しませてもらってるんだ。
その日もいつもと同じ様にお客からのアポの時間をずらして欲しいとTELがあり、時間をもて余す羽目に。
俺はいつものパチ屋のいつもの駐車場定位置へ車を止めた。
バックしてる時、斜め前方に違和感を覚えたんだ。
車を止めた時、目に飛び込んで来たのは変わった色のレクサス。
そうそう出くわさない色の車だ。
ただ…ただ…たぁぁぁぁぁぁだ、俺はその色のその車種を見た事があるんだ!
俺は一気に高揚した。
いや、待て、待てよ!
世の中広いんだ。
同じ色の同じ車種、1台とは限らない!
例え俺が知ってる車の持ち主でも、パチンコしに来てるだけかもしれない。
焦るな俺!落ち着け俺!
そんな時、空き空きの駐車場なのに、その変わった色の車の隣に、そこら辺にいる至って普通の営業車が滑り込むかの様に止まったんだ。
営業車から、40代らしき男が降りてきた。
男はエレベーターに向かわず変わった色の車の後部座席に慣れた雰囲気で乗り込んでいった。
男が車内に消えた瞬間だ!
運転席のドアが開いたんだ。
運転席から出てきたのは……やっ、やっ、やっぱり知ってる顔だった!!!!
子供同士が同じ幼稚園の○○ちゃんママだ!
行事で良く会う○○ちゃんママだ!
いや、行事どころか、一緒に家族同士キャンプ行ったりBBQしたりする、あの○○ちゃんママだ!
○○ちゃんママは運転席から降りると後部座席へと消えて行ったんだ。
営業車から降りて、変わった色の車に乗り込んだのは、俺が知ってる○○ちゃんママの旦那ではない。
俺は高揚感がドンドンと増していくのが分かった。
変わった色の車はリアのスモークはそんなに濃くない。
中は人影ぐらいハッキリ分かる感じだ。
後部座席に隣合わせに座ってるのが、分かった。
俺はまばたきを忘れたド変態MAXになってた。
いや、忘れたんではない。一瞬を目に焼き付け様とまばたきなんてしないんだと、俺の辞書からまばたきを消してやったんだ。
5分が経ち…10分が経ち…。
俺の高揚とは裏腹に後部座席の二つの後頭部は何も起こらない……。
俺の目は限界だ…。
コンタクトは渇き目に張り付き、異物にしか感じなくなり、目薬をするか心が折れそうになった、その時だった。
離れていた後頭部と後頭部の影がくっついたんだ。
後頭部と後頭部の間にあった隙間がなくなったんだ。
二つの影が大きな一つの影へと変わったんだ。
俺は目薬を諦めた。
今一度、目を一段と開き直し人影を凝視したんだ。
一つになった陰は、間違いなく縦へ横へとクネクネと動いていた。
間違いなくキスをしているシルエットだ!
それも、熱い熱い熱いキスだ!
俺は確信した。
「始まった!」
それも知ってるママさんのが、
「始まった!」と。
つづく。