俺が26歳の時の話をしてみようと思います。
俺はその時分、ごく平凡な若者として仕事の合間に趣味としてのオンラインゲームにハマっていました。
やっていたゲームはMMORPGというジャンルのゲームでした。
ここではゲームの内容の説明は必要ないとは思いますが、私たちがどんな世界にいたかというのをお話する上で無駄ではないと思い、少し話させてもらえればと思います。
ゲーム内容を簡単に言えば、まず自分の分身となるキャラを作成し、(オンラインゲームの世界では80%近くが女キャラです。理由は殆ど、男しかプレイしていないから)そのキャラを動かして敵を倒し、自身のレベルアップを図り、そしてより強い敵へと挑んでいくというものでした。
その中に、より強い装備を手に入れて、強い敵を倒すために、プレイヤーは時間と労力を使い、そして時にはリアルマネーの力をも使ってキャラを強化していくという道のりを歩んでいくのです。
そしてオンラインゲームの醍醐味といえば、その同じ目的を持った者同士でギルド(チーム)を作り、そのギルドで一人では倒せない大ボスに挑んだり、またはギルド同士で対戦をしたりするコンテンツもあります。
このオンラインゲームの中の世界で、皆が「最強のプレイヤー」を目指し、「最強のギルド」を目指し、「最強の敵」を倒していくことがこのゲームの趣意なのですが・・。(あくまでゲーム会社の建前上は)
ですが、ゲームという遊びは使っている脳みその部分が特定の領域しか使っていないせいか、同じ趣味でもバイクとか料理とかファッションとは違い、いつかは必ず「飽き」がくる性質のものなのです。
しかし、飽きがきてもプレイヤーたちは、今までにそのゲームに使った時間、お金、労力、人間関係、あらゆるものを飽きたからという理由だけで放棄できない状態となり、ゲーム本編は飽きてしまっているのに、その「人間関係」のつながりの為にゲームにログインするという状態になっていくのです。
この話は、そんなオンラインゲームの中で生きていた我々が、ゲームそのものに活路を見いだせなくなり、ただグータラとゲームにログインし、チャットをしていた時代の話からスタートします。
そのオンラインゲーム(以下、ネトゲ)を始めた時に、ゲームの中のミッションの一つに「ギルドに参加するか、自分でギルドを作る」というクエストがありました。そのクエストを達成すると、特定の重要アイテムをもらえるので、僕はとりあえず、なんでもいいので適当に募集しているギルドに加入申請をしたのです。
加入申請後、すぐにそのギルド「さわやか4組(仮称)」のギルドマスターである、チェルシーさん(自称:34歳)から加入の許可が下りたのでした。
実は、その参加したさわやか4組というギルドは、そのネトゲの中の一つのサーバーの中では、総力戦で上位5位に入っているという強豪ギルドであり、ギルドメンバーも総勢50名という大所帯でした。(実際の活動家は15名~20名であり、他の30名は活動家のサブキャラクターか、あるいは幽霊部員です)
その大所帯を率いるチェルシーさんという人物が、この話の主役となるのですが、少しチェルシーさんについて、その当時分かっていた事をお話します。
チェルシーさん(自称34歳)
ゲームの中での職業 メイン:魔法使い サブ:回復系 サブ2:ディフェンダー
職責:さわやか4組ギルドマスター
ログイン周期:平日9時~15時 土日(終日)
現実社会でのステータス:6歳の娘あり 夫と結婚8年目。今は家族3人で同居中との事。
ただ、このチェルシーさんが、「ただ者ではない」というか、このゲームの世界の中では、知る人ぞしる「女傑」だったのです。
なにが女傑なのかというと僕たちのやっていたゲームには戦略的な要素があり、敵対ギルドの実力が同等か、あるいは劣っていたとしても、戦略自体では戦いを覆す事ができるという要素があるゲームでした。
チェルシーさんは、このゲームの中での名君であり、なおかつ謀略家というポジションであり、同じ派閥ギルドからも敵対ギルドからも一目おかれている存在なのでした。
そして、そんなチェルシーさんの事に熱烈な憧れを持つプレイヤーも数多く、チェルシーさんに人生相談等をしている者までいる始末でした。
ネトゲという特殊な人々が集まる世界(現実に特殊でない人でも、ハマれば特殊な人となる)において、「女傑」と謳われ、圧倒的なカリスマ性を持つチェルシーさん。僕はこのヒトと、この先に肉体関係を結んでしまうとは、ギルドに加入したときには考えもしなかった事でした。