週末になると、私はお気に入りのバーに足を運ぶ。
ゴールドラッシュという、洒落た名前のバーだ。店内で流れ続けるジャズを聴きながらほろ酔い気分になるのが、何より楽しみだ。
ある日、のみ始めた頃に、マスターと好きな俳優のことで話していた。それは、どんな役でもこなしてしまう俳優のことで話が弾んでいたのだが、その時、背後から視線を感じた。振り返ると、黒のカーディガンを羽織って、一人でレモンハイを飲んでいる女の姿があった。
目があったので、とりあえず会釈をした。彼女も口元に笑みを浮かべながら会釈した。
美人だなあ。
何か言うべきところだったと思うが、頭に浮かんでこない。結局、マスターとの会話が再開され、暫くすると彼女はグレーのコートを着て会計を済ませると、店から出て行った。
ねえ、マスター、彼女、頻繁にここに来てるの?
え、ええ。
?
どうしたの?
カズさん、手を出さない方がいいよ。彼女、人妻らしい。
噂で聞いただけだから、本当かどうかわからんけど。
ふーん。
その後私は、例のごとくほろ酔い気分になり、2時間程経過して店を出た。
何とそこで、先ほどの彼女が!
あれ?ど、どうしたんですか?
私のこと、わからない?私はアナタのこと、何回も見ているのよ。ジムでね!
そうか、見た顔だと思ったら!確かに私は、週に三回程トレーニングジムに通っている。実際に話したことがなかったので、今日、すぐにはわからなかったのだ。
彼女は言った。
凄く嬉しいな。まさかここでアナタに会えるなんて!
いやあ、照れるな。そう言われると。
ねえ、カズさん。次にジムに来るのはいつ?
え?今週の土曜の夜だけど。
時間は?
7時頃かな。
じゃあ、私もその頃に来ます!
私は、心臓の鼓動が大きく感じられた。確かに美人だ。笑顔も素敵だ。
でも、人妻かもしれない。
とはいえ、私はジム通いは健康の為にやっていることであり、休む理由はない。土曜の夜に必ず来るのは、次の日は日曜だからだ。ジムでの疲れを取るために思いきって休める。
彼女のことは関係ない。いつも通り、行くぞ!
そして、その日。約束通り私と彼女は、ジムで再開した。
彼女のスポーツウェアは、体全体、肌にフィットし、割りと大きめの胸が体が揺れるたびに上下した。肌に汗が浮かぶと、爽やかさよりも大人の女の色気を感じさせた。
人妻だぞ。
ジムを二人で出て、最寄りの駅までの時間を、雑談で費やした。
彼女とは、不思議と話が盛り上がった。
最寄りの駅に着いたら、ここでお別れとなる。お互いの家は反対方向だ。
確認しておきたい。早く。彼女は、人妻なのか?
あの、一つ聞いていいですか?
なあに、カズさん。
あなたって、あの、ダンナいるの?