待ちかねた土曜日。早や目にお昼をすませてから、シャワーを使ってラフな
服装で、車に乗り込む。
家内は、友達とお昼前にマリノアに出かけた。
夜もすませてくると言っていたから気が楽だ。
なにか、独身の青年に戻ったような気分だ。車で20分弱で、シアターに着
いた。
前の駐車場は余裕があったが、ぼくは敢えて裏に回って、空き地に駐車しエ
ンジンを切った。
シアターの裏は、山が迫っていて、駐車場ではないのだが、空き地になって
いて車を置くのに良いスペースになっている。
お客は、ほとんど前の駐車場に止めて、この秘密(?)の駐車場には気付か
ない。
その裏からゆっくりとした足取りで、前の入口にまわって、はやる気持を押
さえて、中へ入っていく。
暗い館内に入ると次週上映の予告がスクリーンに映し出されている。
目をこらして館内の後部座席を見ていると、薄ぼんやりとした中に豊村絹江
さんが、座っているのを認めた。
清掃に来るときと違って、髪を肩まで垂らして、清楚な半袖のワンピースで
ある。
奥様が、ちょっと買い物に来ていると言う服装だ。召かし込むと、どこに出
かけるのかと詮索される、周りに気を遣った利口な服装だと思う。
ぼくは、周りを確認して、ゆっくり側に行き、隣の席をひとつ置いて腰を下
ろした。ぼくに気付いた絹江さんは、嬉しそうに笑顔で会釈する。
ぼくも笑顔で答えて、周りに覚られないように「ありがとう」と小声で挨拶
をする。「ありがとう」は、「来てくれてありがとう」と言う意味だ。
そして、まもなく、ぼくの欲望を満たしてくれることへの、お礼を込めたあ
りがとうだと言うのが、正直な気持だ。
しかし、100%そうなるかどうかは、まだわからない。
予告が終わり、映画が始まったが、ストーリーなど頭に入らないで、はやく
終わらないかと思ったり、映画館を出てからの手順に、思いを巡らせたりす
る。
途中で席を立ってお菓子とお茶を買って、絹江さんに渡したりして、映画を
楽しんでいる装いをした。
絹江さんは、画面に目を集中していたが、ときおりぼくの方をみて、微笑み
かけてくれたりした。
ここまで来て、映画の後、「今日は楽しかったわ。ありがとう。ここで失礼
します。」と言って、去られることも想定し、それだけは回避し、次の手順
に着手しなければならない。
ストーリーも、中盤から終盤に入る頃に、買ってきたチョコレートを渡そう
としながら、
「終わってから、少しぼくの車を見てみないかい。よく走るんだよ。」
と言ってみる。
「あら、そうなの。」
そう言って、前を見たまま画面を見続けている。
ぼくはしばらく、そのままで、目で画面を追いながら、クッキーを食べ、お
茶を飲んで、
「コーヒーの美味しい店があるんだ。」と言う。
「そうなの。」
絹江さんは、受諾とも、拒否ともとれる返事を返して、見続けている。