ポーン…。
少し低めの機械的な音が待合室に響くと、71の文字が点灯し
「長島さん、長島果歩さん…。3番の診察室にお入りください。」
表示板の案内に続いて聞き覚えのある男の声が届く。
(予約の名前も旦那の名前じゃなく自分の名前…。ちゃんと一人で来たみたいだな…。)
予約を確認するたびに「長島」の苗字を無意識に探していた。
そして苗字を見つけ、名前が夫ではなく妻の名であることを確認したとき、男はそう思った。
幸か不幸か当日、果歩が予約を入れた時間以降に予約がまだなかったこともあり、男はその日の予約をそこで締め切っていた。
狙いすました獲物に集中する為、良く取る策だった。
「こんにちは、わざわざご足労頂き、ありがとうございます。長島さん。」
スライド式のドアがゆっくりと開く。
そこに立っていたのはもちろん見知った顔。
しかし、男の知る顔よりも少し強張ったような、浮かない、緊張気味の表情だったのはすぐに気づくことができた。
医師という立場を寄り際立たせるという意味でも、あまり感情を表に出すことはしない。
淡々とした印象を付けるために、必要以上に抑揚のある話し方もしないように意識していた。
雰囲気がある、というのはそれだけで信じるに値し、その内容が深刻であればあるほど盲目的に信用し、崇拝にも近い状況になりうることを当然男も知っているのだ。
デスクの上には夫の名が記載されたカルテ。
そしてその脇には、念の為と撮影した萎えたままの肉棒のレントゲン写真。
全ては精神的に妻・果歩を追い込み、その身を文字通り捧げて夫の為を実行させる為。
「先日お話ししたとおり、やはり奥様…果歩さんの協力無くしてご主人の回復は厳しい物になるでしょう。
可能性の域を出ることはありませんが、夫婦関係が、その原因の一部であることは否めません。
もちろん、大方の原因は仕事によるストレス…だということは変わりませんが…。」
冷静な口調、雰囲気のまま男は言葉を続ける。
あくまで原因は仕事のストレスであることは明言しつつも、少なからずお前にも責任がある、という表現が
明らかに夫婦関係が原因だ、というよりも真実味を持たせる。
「その為にもまずは奥様…、貴女が勃起…に対する理解を広げていかなければならない。」
静かな診察室の中でそっと飛び出る、勃起、という言葉。
自然生活していれば大凡聞くような言葉でもなく、それが友人でも知人でも、それこそ家族ですらない男の口から聞こえることなどないだろう。
軽いジャブ。
違和感を感じさせてはいけない。
責任感、罪悪感に心を蝕まれる感覚をもたせながら、医師という存在に従属させなければならない。
そして続けて口を開き、
「奥様…、どうして男は勃起すると思いますか…?どういうときに勃起すると思いますか…?」
徐々に、カウンセリング、診察という名の調教が始まりを迎える。
【遅くなりました。
お気遣い、大変恐縮です。
仰るように無理してまでお相手を続けていただく必要もないと思っています。
イメージと違う内容になってしまうのはよくあること、少なくはありません。
もしその時が来たらそうですね…。
出来れば放置をせず、一言頂けるか、スレそのものを削除だけしていただけると、待っていていいのか諦めるのかの判断ができるのかな…そう思います。
もちろんそれも、無理強いは致しません。】
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