「…。」
僅かな時間を経て、山根賢太郎と名乗る男からの返信を確認した。
指定した時間に問題はなく、指示通り二人で契約の場にやってくる、と。
その内容を確認すれば返事をすることはなく、そっとノートパソコンを閉じた。
「別に…あんたを興奮させたいわけじゃないんだけどね…。」
ぞくりとした。
その言葉を脳内に思い返しながら、苦笑いを浮かべ、そんな言葉を口にしていた。
-----
当日の夜。
指定した時間の少し前から男は待機していた。
安っぽい場所ではなく、有数のホテルの一室をその場所に指定したのにも意味があった。
ただのごっこ遊びではない。
どういう相手に貸し出されるのかを色濃く意識させること。
そして、場所に現実味がなければないほど、先々に想定される行為も想像を超えるかもしれないと連想させることが、男の目的だった。
一線から身を引いてしばらく経つ。
経済的には成功した部類だと言える環境に身を置き、女を、とりわけ男に所有されているであろう女を弄ぶことで第二の人生をさらに充実させようと企てている男。
その企みもまた、概ね成功しているといえよう。
容易のこのような高級ホテルに夫婦を呼びつけることも可能になり、結果そこからもたらされた寝取りの一部始終が、さらなる金を生む。
やりたいことを続けるだけで、よりやりたいことがしやすくなる。
理想的な発展ループを、男は寝取る、躾けるという生活の中で確立していた。
そしてその日からまた女が一人、独りよがりな男の生活の一部になろうとしていた。
「初めまして、八谷幸喜です。
今日はよろしくお願いします……友梨奈さん。」
出迎えた先にはやり取りを続けていた賢太郎という男。
そして、その妻友梨奈の姿。
聞いていた話に間違いがなければこの男は10歳ほど年が下のはずだ。
だが表情、体型、洋装、あらゆる点において八谷を遠く及ばない。
蔑んでいるわけではない。
経験的な意味合い、あるいは積み重ねてきた結果からくる自尊心、自信がその差を生んでいる。
(紹介の内容は概ね間違いないようだ…。
想像以上にスタイルも良い、雰囲気も上々…。
この男には確かに持て余すだろう…、他の男の手を借りたくなる気持ちもわからないでもない…か…。)
視線を友梨奈の身体に走らせる。
それはそれは艶めかしく、文字通り舐めるような視線がつま先からその表情の細部に至るまで降り注がれる。
より正確な情報を提供する男の期待と覚悟、そしてその夫の気持ちに流されてこの場に足を運んだ妻の緊張、背徳。
男にはそれらが手に取るようにわかるのかもしれない。
「さあ、どうぞ中へ。
ゆっくりお話ししましょう……」
小さくそう呟き、部屋へと通す。
薄暗い室内。
オレンジがかった灯りがベッドボードの辺りから僅かに室内を照らす。
数メートル離れれば互いの顔の細部が確認できないようなそんな薄暗さ。
向かい合わせに据えられたソファ、そしてその間に申し訳程度に設置されているローテーブル。
男は夫婦をソファへと促すと、自身も対面に腰を下ろした。
肘を膝の上に置き、少し前かがみで夫婦…もとい、友梨奈の方を覗き込むように口の前で両手を組み、見透かすような視線を投げかけながら。
「緊張が見えますね…、怖いですか…?私が…。」
薄い笑みを浮かべる男。
恐怖で縛るつもりは毛頭なかった。
しかし、何の緊張も恐怖も、強張りも感じないなどという腑抜けた躾、にするつもりもない。
少しずつ男のペース、いや、最初からか…。
【契約云々のところまで一気に書き込んでしまおうかと思いましたが、思った以上に兆部になってしまったので途中で送ります。
早々から回りくどい描写で恐れ入ります。】
※元投稿はこちら >>