「よ、吉田…様…。ぇ、あ…、吉田さん…?」
(何もしなくてもいいのかな…。お金もったいなくないのかな…。でも、ここに来る人ってお金持ちばっかりみたいだし、吉田様も…?)
痛いことだって、苦しいことだって、何でも我慢できる。
だってこんなにも良くしてくれているから。
しかし、優しく手を引き、ソファに座らせてくれた吉田を不思議に思いつつも、会話を再開すれば妙な考えはすぐに消えてしまう。
「ええっ!?それって大変じゃないの!?」
「うわぁ…、お可哀想に…。」
「あははっ、すごいっ、あはっ、すごく楽しそう…!うふふっ!」
吉田が話す社会や会社のこと、私生活、趣味の話。
どれも新鮮で、聞いているだけで楽しかった。
「ボールペン…、これ吉田様が作ったの…っ!?すごいすごいっ!すごいですっ、吉田様っ!」
鞄から手渡された猫が装飾になったボールペン。
目がキラキラと光り、手元のそれをじっくり眺める。
「か、可愛い…、えへへっ、ニャン太郎みたい…。あっ、ニャン太郎って、昔家で猫を飼ってたんです。それがニャン太郎。」
ソナに来る以前の話。妙な緊張感を覚え、吉田に鼓動が高鳴る。
そんなことは露知らず、当のメイはボールペンの芯を出そうと尻尾を指で押し…
「痛…ッ!…ぁっ!ご、ごめんなさっ、申し訳ありませんッ!ごめんなさいッ!!」
生爪を剥がされていたことを強く鈍い痛みで思い出す。
ボールペンを床に落としてしまった瞬間、猛烈な勢いで謝罪を大声で繰り返す。
ご主人様から貰ったもの。床に落とすなど言語道断で、とんでもない粗相。いつもなら酷いお仕置きがあるが…。
「…ぁ、ご、ごめんなさい…。」
吉田は違う。
どんな趣味嗜好があるかわからないけれど、少なくとも粗相に怒り、暴力を振るう人ではないことはわかっていた。
でも、他の客と一緒くたにして、クセで何度も謝罪し、許してもらおうと、少しでも罰を和らげてもらおうと必死なサマを見せてしまった。
(私バカみたい…、せっかく楽しくお話しできていたのに…。)
大袈裟に謝ることこそ、吉田に対して失礼な態度。
幻滅されていないか、嫌われていないか、吉田の顔が見れずに前髪で伏せたまま、床に落ちたボールペンを拾い上げた
【おはようございます。良きところが来たら、緩急をつけていきたいですね。】
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