「いや、あの…、なんでもないです…っ。」
客ともキスはほとんどしない。基本はメイを見下している相手が多く、愛撫的なことはほぼない。
口はペニスを咥えるか、殴られてゲロを吐くか…その程度の役割。
汚れきった汚いもので、我儘を口にしたことを後悔していた。
だからこそ、承諾の言葉を聞いて勢いよく顔を上げてしまった。
「…えっ?…んっ、ちゅ…っ」
(あったかい…。)
吉田に精一杯合わせるように背伸びし、そっと唇を重ね、包帯に覆われていない片目を閉じる。
唇を重ねる行為や触れ合うことに対し、普段感じる恐怖や嫌悪はなく、心地よい温もりを感じた。
「ありがとうございますっ!あの、きっと、また今度…っ!」
(ホワホワしたこの感情…、忘れないで覚えておこう…!痛くても苦しくても、きっと我慢できるもん…)
深々と頭を下げ、明るく別れる…、そのつもりだったが、寂しげな表情は隠しきれなかった。
「え…。」
延長。思ってもなかった言葉に固まってしまう。
少しの硬直の後、ブンブン激しく首を縦に振る。
「で、ででっ、できますっ!!あのっ、次に予約が決まってたりしなければっ、私こんなのだから全然っ!!」
露骨に表情が明るくなり、大きな声でルールを説明する。
「えっと、合計で180分まで延長できて、えっと、30分ごとに〇〇円で…」
ソラは闇風俗店の中でも奴隷を扱うだけあり、格安ではあるが、一般の風俗店よりも高い値段設定。ましてや延長となると、一般のサラリーマンにとってはまあまあ財布に痛い金額だった。
ソラの常連を相手することがほとんどのメイは、久々に延長の金額システムを説明し、指折りながら足し算をしていく。
「で、合計が…、あー…、えー…っと…」
18歳を迎えたとなっても、足し算が難しい。
血が滲む包帯で巻かれた指を使いながら一生懸命数を数えるが、結局吉田の方が計算が早かった。
受付に延長を告げるベルを鳴らし、財布を見つめている吉田に向き合う。
「…ねえねえ、本当に何もしなくていいの…?私、ご主人様になら何されてもいいよ…。いや、いいよって、そんな立場じゃないけれど…。それに、ご主人様は怖くないし、痛いこととか、苦しいことだってなんでも我慢できると思う…。」
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