「いよいよ明日…城に到着ですね…」
アレクとサリーナは、三日月と無数の星々が煌めく夜空の元、川のほとりで身を寄せ合っていた。
幽閉された屋敷を出て半月…花火の夜からほぼひと月が経っていた。
「サリーナ様…城に帰ったらルシアという者を侍女としてお付けください…その女は私同様に親も城で働き、自らも女給として働いております…私とは気心がしれた仲で私たちの味方となってくれるはずです…それと…あぁ…打ち合わせはもうこのくらいにしておきましょう…時間が勿体ない…こうして愛し合うのも暫くは我慢ですからね…ですからもう1度…」
二人は見つめ合い唇を重ねると激しく舌を絡ませ、そのまま地面に敷いた毛布へと倒れこんだ。
幽閉された屋敷から城への道のりは、当初の予定通りには進まず若干のおくれが出ていた。
天候など様々な理由もあるが、病気がほぼ完治したとはいえ、サリーナの体調を気づかいながらの長旅では致し方ないこと…予定した宿まで辿り着くことができずに今夜のように野営を余儀なくされることもあった。
だがこの野営の夜こそごアレクとサリーナにとって貴重な時間となる。
宿に泊まることになった日は、警備のためにその宿屋を貸し切り、サリーナの部屋の前には夜通し護衛の兵が立った…サリーナが部屋を抜け出すこともアレクがサリーナの部屋へ忍び込むことなどできない状況…
野営となった夜もサリーナのテントの前には護衛の兵は立つものの、黙ってテントの中に入ったり覗いたりする不届き者が居るはずもなく、出入り口とは反対側のテントの下から抜け出すことも可能だった。
こうしてテントを抜け出したサリーナを伴い、兵たちの居る場所から離れた所で二人は肌を重ねた。
あくまでも野営は予定外であり何日も無いことが多く、毎日のようにアレクに抱かれ何度も気をやる癖のついたサリーナには辛い旅であり、2日…3日と予定通りに旅が進むと馬車に持ち込んだ玩具を取り出し火照る身体を鎮めるためにオナニーに耽ることも…そんな時は決まって窓から横で馬を並べるアレクを見つめながら…サリーナには切なく寂しい時であった。
アレクもサリーナには辛そうな顔を見せつつも、内心ではほくそ笑んでいたのは言うまでもない…
「姫様…城壁が見えて参りました…」
朝、早めに野営地を出で数時間が経ち、アレクとの夜更かしと早起きでサリーナが大きな欠伸をしているところへ先頭を歩く兵が馬を返し馬車の外で叫んだ。
サリーナはその声で馬車の窓から身を乗り出した…小高い丘から見える城壁…何年かぶりにみるレイウスの居城…
風で乱れる髪を気にすることもなく身を乗り出すサリーナ…その目からは涙が溢れた。
こうしてサリーナが正面から城を見るのは、まだ病が発病する幼かった頃以来…サリーナが城が遠い地へ旅立った時は、人目を避けるように城壁の後ろを流れる川からの出立であったためだ。
城を出た時はもう2度と見ることはないとある程度の覚悟を決めていたサリーナにとって感慨深い光景なのであろう…
丘を下り高い城壁の下…開かれた正面の門を近衛兵を先頭に進む…門からまっすぐに進んだ先に城がある。
元々、ここは城塞都市であり、街を取り囲む高い城壁はその名残り…レイウスの先々代の時代にこの地は平定され、その役目を終えた。
正面の門から城までも道は、敵兵の侵入を阻害すべく迷路のようになっていたのたが、レイウスの手により再整備か行われた…今はサリーナ一行か城を目指し進むのはこの都市のメインストリートだ。
サリーナの乗る馬車が通りに入ると歓声が上がった…通りの両側には人々が集まり拍手と歓声を…建物の窓からも身を乗り出し手を振る人々…
名君と慕われるレイウスに姫が生まれた事を我が事のように喜んだ人々…まるで天使のような美しい姫は、市民にとって自慢であり誇りでもあった…その姫が不治の病になったとわかった時の人々の落胆を考えれば、この騒ぎも納得できるものだった。
中央広場を抜けさらに奥へと進むと前後を守る近衛兵が左右に並び馬車が止まった。
そこにはレイウスとメイサの姿があった。
二人の姿を見つけたサリーナは、馬車を飛び出し駆け寄り、飛びつくように抱きついた。
本来ならば王に対しての礼儀はあるのだが、この時は王も姫もなくただの親と子…諌める者などなく、その場にいた全員が涙を流した…ただ一人アレクを除いて…
「よくぞ戻った…もう会えないものと諦めていた…長旅で疲れたであろう…とりあえず少し休みなさい…」
泣きじゃくるサリーナを左右から抱くように歩き出したレイウスとメイサ…
「アレク…苦労をかけたな…お前には感謝の言葉しかない…礼を言うぞ…後ほど褒美をとらせる…お前が望むものなら何でもな…」
歩きかけたレイウスは後方で片膝をつくアレクに気づき声をかけた…この時の一言がレイウスを悩ませることになる…
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