「先程は本当にすみません…、アレクは怒っていますか…?」
叱られた子供のようにアレクを見上げて呟く。
「怒っていませんよ、ただ心配になってしまっただけです」と答えるアレクに、再び笑顔になって、もう一度謝罪の言葉を口にした。
手を引かれながら歩き続け、ようやく祭りの会場へと足を踏み入れた。
「すごいっ、すごいですっ!賑やかで、楽しげで、みんな幸せそうです…っ!」
大きな広場全体が会場となっており、お囃子の音に負けないほどの歓声や笑い声が響き渡っている。
額に汗をかきながらもハンカチで拭い、アレクの袖をぐいぐい引き、今にも駆け出しそうな勢いで歩を進めた。
「か、買い食いしたいです…っ!!本で読んだことがあるんです…っ。お祭りに行って食べる屋台の御食事はとても美味しく、筆舌に尽くし難いと…。」
少し大げさかもしれないが、街に対して幻想を抱きつつあるサリーナからすれば仕方のないこと。
日傘を差すアレクの手を引き、興味を惹く屋台を探すが、正直どれもこれも気になるものばかり。
「わあっ、雲みたいな…。ええっ!?あれが飴なのですか…っ!…これは、丸いボールみたいですね…。中にタコが入っているのですか?…た、食べてみたいです…っ!」
サリーナが虚弱であるからこそ、手を引いているアレクだが、周りから見れば仲良く手を繋いでいるだけ。
かたや異彩を放つ美女であり、親しげにしていることさえ、嫉妬を生むほど。
たこ焼きの屋台の前で、油っこいジューシーな匂いに釣られて立ち止まる。普段はこのようなジャンクフードは口にしないが、慣れない環境を、普段よりも歩いて運動したこともあり、空腹が激しかった。
「ごめんください。こちら、一つくださいませ。…アレク、こちらで払ってください。お父様からいただいたお小遣いですっ」
小脇から取り出したのは、例の過保護なレイウス公からの駄賃が入った布袋。封を緩めて確認すると、中にはぎっしり金貨が詰まっており、総額払えば屋台三つはこの場で買えるほどだった。
金貨一枚を払い、大量のお釣りをもらいながら、アツアツのたこ焼きを受け取るサリーナ。
「いただきます…っ。…ぁっ、熱っ、ぁっ、熱い…っ、んっ、んぐっ、ふぅ…っ、美味しいですっ!店主様は達人ですねっ!」
熱がりながらも一口食べ終え、満面の笑みで店主に話しかける。美人に褒められたせいか、露骨に機嫌を良くしながら照れる店主だったが、
「アレクもどうぞ、食べてください。傘をお持ちですから、私が…。少し屈めて、口を開けてください…。熱いですからね、ふぅーっ、ふぅーっ…!…はい、あーんっ。」
目の前の見せつけるような光景に、舌打ちする店主だった。
※元投稿はこちら >>