あの日から律子は塞ぎ気味になりそうになりながらも、僕は律子を側で励ましながら、復帰に向けて律子はトレーニングに励みながら普通に生活をしていた。
そんな時に不意に玄関のチャイムが鳴る。
トレーニング中の律子から「…あら、誰?ごめん瞬一、見てくれる?」と言われ「うん、わかった律子。
はい、どなたですか?」と言ってインターフォンの画像を見るとそこに映っていたのは…
まなみさんだった。
えっ?えっ?どうして?何故今、まなみさんが家に訪ねて来る?
と軽くパニックになって固まっていると…
「どうしたの?しゅ…
…まな?まなだ!帰ってきてくれたんだ!まなっ!」と見に来た律子がまなみさんに気づいて嬉しそうに声を上げて話そうと駆け寄ろうとする律子の行くてを阻む様に僕は律子が前に立ちはだかっていると
「っ?ちょっと!瞬一!離して!まなが!まながすぐそこにいるんだよ?
離して!まなが答えを見つけて尋ねてきたんだよ?応えない方が卑怯だよ!瞬一!」と律子が僕の中でもがき、泣きながらまなみさんの名を叫びながら腕を伸ばす律子。
「出たら駄目だ、律子、何をされたか忘れたのか?」と言って説得しても無駄、それどころか「瞬一!聞いているの?
ここで会わせてくれなきゃ、あたしあなたを許さない!見てわかるでしょ?これがあの日のまな?画面越しでもわかるでしょ?どれだけ反省をしているかを!
あたしを大事だと言うなら!お願い!まなに…」と律子が初めて僕に対して敵意を剥き出しにして言ってくる。
改めてまなみさんとの絆の深さを痛感する羽目になってしまい…
何か今まで律子の事を思ってしていた事が全て無駄だったのか?そう思うと掴んでいた手の力が抜けると、律子は振りほどいてモニター画面に駆け寄るが既に画面は時間が過ぎて消えていて、律子が慌ててつけ直したが、そこにまなみの姿がなかったようで…
「まな…まなぁ…」と壁にもたれてずれ落ち、泣き崩れ「まな…まなぁ…何が言いたかったの?どうしたかったの?…あたしは…もうとっくに許してるから…あなたのあの目のことは…とっくに…」と言う律子に声をかけて触れようとした時…
「触らないでっ!酷いよ!いくらなんでもあんまりだわ!今、今この時の事…あたしは…あなたを絶対に許さない!」と言って僕手を払い、泣きながら癇癪を起こして小さく丸まって泣き崩れた…
僕は払われた手を擦りながら「ホント…今まで律子の何を見ていたんだろう?良かれと思ってしていた事が…これじゃ完全に裏目に出ちゃった…」と困った様に呟き小さく丸った律子を見てたら律子は泣きながら眠ったようで「まな…まな…」とうわごとの様に呟いていた。
そんな律子を見てたら僕は胸の奥がキリキリと痛んだ。
だけどこのままにしておく訳もいかず、律子をそっと起こさない様に抱えあげるとベッドに入れると布団をかけた。
そして、一旦リビングの椅子に座り、胸元からクマのトップの付いたネックレスを取り出し、「これをもらった時にはすっごく嬉しかったのに…今ではコレが凄く重く感じる…まさかあのまなみさんがあんな暗く何処までも沈んだ怖い瞳をするなんて…」と律子を襲っていた時のまなみの瞳を思い出し、一つため息をついた。
「律子とまなみさんはやっぱり2人で一つなんだな…律子はあんな事されても、まなみさんを許しているなんて…もう少し裕介さんが入ってくるのが遅かったら、確実にあのまなみを力任せに殴っていた。
自分が好きな人に裏切られて犯されそうになった恐怖は体験済なのに、それをするなんて…
律子が許したとしても、僕は許せない。
」と独り言を言った後、ふと玄関に近づきまなみさんはさすがにもう帰っているだろう…あれから随分時間経ったから…と思いながらドアを開けると…
「…あ…」と言うまなみさん。
思わず睨む様に見下したが…まだまだ寒さが続く日の中、小さくなって頬や耳を赤くしてる姿を見て、僕は頭を一つ掻いて、自分を落ち着かそうと大きく息を吐いてから…
このまま無視する訳にはいかないな…と思い
「…荷物貸して…律子は泣き疲れて寝てるから…ここじゃなんだから、外で話そう。」と言って荷物を受け取り「それと、ちょっと待ってて…」と言って余りに寒そうしているまなみさんを見て、気の毒になり、まなみを玄関先で待たせて、暖かいカフェオレを淹れてまなみに「…どうぞ」と言って渡した。
まなみが美味しそうに飲んでいる間にまなみの荷物を律子の寝てるベッドの横に置いて「まなみさんと話をしに出かけます。」と置き手紙を書いてまなみの元に戻り
「…ごちそうさま。すごく暖かくて美味しかった。」「それならよかった。…もう行ける?」「はい…」と少しぶっきらぼうに話ながら家を出て、大きなグラウンドがある公園に向かった。
まなみさんに実際に会って、その瞳や雰囲気に触れていると、なんとなくだけど、今まで感じていたわだかまりみたいのが薄れていく感じがしたからこそ、まなみさんはやはりあんな事する娘じゃない。
そう思えたからこそ、まなみさんの口から理由を聞きたかった。
実際、まなみさんにこうして会うまでは、絶対に律子と会わせない。そう決心していたが、その気持ちは既に揺らいでいた。
まなみさんから明確な理由を聞いて納得したい…でもその理由が納得できないモノであったら、律子が何と言っても絶対に会わす訳にはいかない!と思いながら歩いていると、まなみさんは僕のやや後ろをついて来ていた。
そして大きなグラウンドがある公園に着いて立ち止まると「ここ…たぶん、りっちゃんがいつも行くと言っている…そっか…静かで…いいところ…」と言って辺りを見渡してからまなみさんが「…星野くん…本当にごめんなさい。
のんちゃんの事があってからの…まなおかしかった。どうかしていた。
取り憑かれたように何かがまなの中で狂っていくのがわかってて…止めれなかったの…」と歩いてたそのままの距離、約2メートル程離れて話出すまなみさん。
僕は振り向き、腕を組んでまなみを見ると、深く下げた頭を上げて話を続けた
「…まな、久しぶりにのんちゃんとみんなに会って、嬉しかった反面自信なくなっちゃって…前に裕介さんとりっちゃんには、まなは待つのが仕事だから、思い切って前をみて進んでねって…話しました。でも、それでいいのかなって…特にりっちゃんの伸び方はすごいから…」と語るまなみさん。
確かに律子の伸び方は側にいる僕さえ驚く成長だった…でもまなみさんのおかげでそこまで行けたって思えなかったのか?
その辺は裕介さんのせいが大きいと思った。
そして「まなみさんのこれまでの事はわかった。…今のまなみさんを見ていたら、もうあの目をした本当に悪魔みたいだったまなみさんじゃなくなったのは良くわかった。だから、あの日の事は…色々言いたい事はあったけど、これっきりにしたいと思う…」とゆっくり言った。
「星野くん…ありがとう…」と安心した様に言うまなみさん。
「だけど!これまでとこれからは違うからな!そして…してしまった事実は変えようがない!だから、何がどう変わって、これからどうして行くか示してくれないと、律子に会わせる訳にいかない!そこをどう示してくれる?」「それは…」と日が傾き、ざわざわと風が木々を揺らす中、まなみさんが見つけ出した答えを語る。
まなみさんの真剣な眼差しを眺めながら長い沈黙が流れる。
その眼差しはこれで駄目ならもう2度とここには来ないって決意が滲み出ている感じがした。
「それは…我儘でかなり欲張りでしょ?でも、まなみさんらしいや…」と忌憚のない感想を述べると「…まな、本当は我儘で欲張りなの。最近気づいたんだけどね?」とおどけて返して来た。
2人の距離が徐々に詰まり、まなみさんが僕の胸に顔をポフッ…と肩を震わせ俯き、涙を流しながら何度も「ごめんなさい…」と呟いた。
僕はまなみさんの頭を撫でながら「…今度あんな事をしたら、側に裕介さんがいようと、誰がいようとその時は本気で殴るよ?それだけ…あの時は気持ちが沸騰しそうだったから」
「うん…もうないけど、もしまた…まなが道を外しそうになったら…その時はおもいっきりお願い…それと…」と言って僕の首に腕を回すとぐいっと引き寄せられ、唇を合わすだけの…キス…
少しだけそのままでいると、唇が離れ「…ないしょだよ?どちらにも…これが…まなの気持ち…ほんとに…ありがとう…」と言われたその時
「まな!」と律子の声が背後から聞こえた。
2人は僕の目の前で抱き合い、互いに謝り合って許し合う姿を見て、敵わないなぁ…出来る事ならまなみと離したかったけど、これじゃ無理、まなみの事を想っている律子の姿が僕はどうやら好きらしい…と思っていると
まなみを胸に抱きながら律子が「瞬一、さっきはごめん。あなたの気持ちをあたしは踏み潰した。
それは本当にごめんなさい。
あたしはあなたが一番。それはもう絶対に変わりない。でもやっぱりまなが…」と言う律子。
「まぁ…その事はまなみにも言った事だけど一度吐いた言葉はどうやっても2度とは戻らない。
大切なのはその後どうするのか?どう行動をするのかにかかっている。
今回は許しても、また同じような事を言った時は…
…それにまなみさんが変な答え出すわけない?
さぁそれはどうかと思うよ?」まなみと顔を見合わせてクスッと笑い「ちょっと…変かもよ?」と言った。
「あらぁ…2人ともいつの間に仲直りしたの?それなら今夜は家に泊まって…」と律子は安心した様に言って、初めてまなみさんを迎えて一夜を過ごした。
僕は話をしている2人に気を使って1人別の部屋に行き、寝ようと思っていた。
【まなみさん、お待たせしました。
まなちゃんがどんな話をしてくるのか、楽しみにしてます。】
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