「あ、佐々木さんこんにちは。
どうかなさいました?」
玄関で挨拶とともに要件を尋ねる私。
佐々木さんにはちょっとお節介なところもありますが、基本的には良い人で色々細やかな世話を焼いてくれるので、私も柚月さんも信頼していました。
それにしても、前から綺麗な人だったけれど、最近特に綺麗になった気がします。
大人の色気というか、潤んだ瞳や濡れた唇が、ほんの半月ほど前までのきっちりした清潔な美しさよりも魅力的に思えます。
特に、本来胸が大きかったり腰が括れたりしていると綺麗に着付けられない着物を、胸を強調しつつも器用に着崩れさせない技術。
そのおかげで、派手すぎると思える原色のピアスも、なんとなく自然に思えてくるのです。
それに比べて、安物のカットソーとデニムパンツの私…女として負けてるなと感じつつも、翌日のイベントの誘いに答えます。
「ああ、それですか。
私はちょっと、以前から予定していた外出があるんですよ。
私がいなくても柚月さんが出席するそうなので、ご一緒すればどうでしょう?
よければ私からも声をかけておきま…す……よ…」
洗脳電波を至近距離で受け、意識が一瞬飛んでしまう私。
タブレット上に一瞬映る文字を何度も見せられ、自分の気持ちよりもマンション内の都合を優先するのが共同体の構成員としての義務だと思い直します。
「…そうですね、うちの人も後日でもいいって言ってくれているから、今回は出席します。
できれば、午前中のうちに終わるようならありがたいんですけど?」
『それは成り行き次第よ。
早く終わらせたいなら、しっかりと真面目に教わって進行を早めましょう。』
私の要望をうまくかわされますが、その通り、遅くなるとしたら開催する側ではなく私達の問題なのだ…と責任まで押し付けられても違和感を感じません。
「連絡事項ですか。
それじゃ、入力なしでもこの場での返事で参加回答はしたということで良いんですね?」
確認をしながら連絡事項を流し読みしていきます。
運動しやすい服装、タオルや水分の持参など、ごく普通の注意が並ぶなか、一番下の行が不自然な空白を作っていました。
そこに瞬間的に映る文字を、自覚的には認識できませんでしたが、無意識はしっかりと捉え、それを受け入れていました…
「わかりました。
それじゃまた明日。
行く時にお声掛けしますね。」
そして当日。
服装はTシャツとスパッツに決めましたが、鏡の前で考え込みます。
胸の体型への負担を考えるなら、スポーツブラが一番良いのは明らか。
なのに、自分でも訳がわかりませんが、無性にビビッドなピンクのブラとTバックが着たい…そんな衝動にかられます。
そして9時50分も回ろうという頃、インターホンが鳴り、佐々木さんと柚月さんの来訪を伝える夫の大声。
仕方なく大急ぎで手に持った下着を着けます。
その時手に持っていたのは、偶然なのか必然なのか…ベッドにグレー系のスポブラを放置して、玄関へ向かうのでした。
「ごめんなさい、二人とも。
私のほうから呼ぶつもりだったんですけど、いろいろ迷っちゃって。」
服の下はともかく、厚手のTシャツもスパッツも、均整の取れた私の身体を健康的に見せるものではありました。
【そうですね。
佐々木さんはそういった室内での習い事は一通り嗜んでいるイメージにしましょうか。
確かに佐々木さんが踊りまで網羅すると、日舞一択になってしまいそうですね。
他の人にフラメンコやベリーダンスのような派手めの踊りをしてもらいましょう。】
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