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本音に触れたい子

投稿者:野々村麻生 ◆yOw62dPlEw
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2025/12/30 17:07:04 (dLV862A6)
漫画喫茶というエンタメが生まれて以降、数々の企業が参入し出店してきた。
フランチャイズ経営から個人経営など様々。店内の雰囲気、間取り、本の数、フードサービス…など、差別化を図ってきているが、
漫画喫茶というパーソナルスペースを金銭により一時的に確保できるというニーズに関してはどの店も応えていると言える。
利用者が求めるのは何よりも、外界から遮断された自分だけの世界なのだろう。

某県、ここもそんな利用者をターゲットにした漫画喫茶がいくつか出店されている。
ネームバリューのある喫茶には年末でも利用者が後を絶たない。
そんな喫茶とは違い、目立たない場所に聳え立つ喫茶があった。
宣伝やコマーシャルには一切載らない。地元の住民がかろうじて知っていて、その趣向をもつ者だけが利用している…という程度だった。

一見その他の喫茶と同じに見えるも、そこはネット掲示板に寄せられた投稿を書籍化しているというオリジナルなコンセプトをもつ店だった。
掲示板と言えば、謂わば人間の本音を投稿する場所。規制があるというものの、忖度や遠慮というブレーキは極めて緩まり、暴走した者によっては法に触れる言葉を平気で綴るところ。
良く言えば、人間の本音を知れる場所なのだ。
経営者の理念は謎だが、そういった人間が「唆る」ものを一早くターゲットにし、漫画喫茶というエンタメへ取り込んだところは相当な嗅覚の持ち主なのだろう。
大手には遠く及ばないが、実際何年も営業しており、一定の利益を得られる程の利用者が訪れていた。

貴方も実はその喫茶の常連客で、大手店ではなくそこを選んで通っている者の一人。
漫画や雑誌など、他店と引けを取らない品揃えが目的ではなく、やはり書籍化された生の声を求めての事だった。
30代後半、バツイチ、子なし‥
妻とは一年前に離婚。原因は性格の不一致‥と言えば耳慣れしたものだが、実際は妻の不貞‥だった。
数年間の交際の末、互いに愛を誓い合った筈の後に起きた事…
貴方は傷つき、女性不信に陥る。なんとか平常心を保ちながらも、現実と遮断するべく度々ここへ転がり込んでいる…という現状だった。
書籍化されたその「本音」達は皮肉にも貴方を癒していた…

年末という寂れた雰囲気の時期にも恒例にここを訪れた貴方。
やはりいつもよりかは客足が少なく、殆ど利用者はいない様。

「71番のリクライニング席ですね。ドリンクはフリーとなっており、フードメニューはテレフォン又はパソコン上からオーダー可能です。
 どうぞごゆっくりくださいませ‥」

入口で受付を済ませると貴方はドアを開き喫茶エリアへと進んだ。
漫画が陳列された棚を横切り、やや入り組んだ通路を進むと新たに広いスペースを従えたエリアに入った。
ここが例の書籍化された本棚のエリアだった。
いつしかこんなマイノリティーな場所が貴方の心安らげる場所になっていた。

「ふうっ‥」

一息上げ、ふと前を見ると休憩場の床に三角座りする少女?…がいた。
本を膝の上にかざし読んでいる。



…真っ白のパンツがデルタ状に丸見えになっている…
少女は貴方の存在に気づかないかの様に、変わらずその体勢で本を読んでいる。

「本音」の読者?…

というより、少女がこんな時間帯に滞在している事が何よりの問題。

スカートは…制服?…
その服装はこの地域で見られる高校生のもの。
何故こんなところに?…

パラッ…    パラッ…

未だ貴方の存在には気づいていない様で、少女は集中して本のページをゆっくりと捲り続けている。
一体どの「本音」を読んでいるのか…

【恋愛の裏側】

少女が持っている本の側面が貴方の方へ向いており、タイトルを読み取る事が出来た。
裏側?…
そう書かれた少女にはミスマッチに思えるタイトルの本を読んでいる…
内容は?…

!?

貴方はふと思い出した。
この喫茶は読者が本の利用に極力被らない様、同じ本を二冊用意しているのだった。
貴方はややそそくさと少女が持つ本と同じものを探しに行く…

恋愛の裏側…恋愛の裏側…

あった‥
最早喜びの表情で貴方は手に取るとさっそくその本を開いた…



《処女だと思っていた彼女が…実は非処女でした。
 彼女の事は好きです。愛しています。でも…どうしても過去を認める事が出来ません…》



《僕は一応女性経験があり、所謂童貞ではありません。
 言える立場ではないと思っています。でも…
 彼女が…他の男とセックスして喘いでいた事を想像すると…どうしても…僕は…
 僕は…おかしいですか?…
 自分に女性経験があっても、彼女には処女でいてほしかった…そんな本音が…どうしても消えないんです!!!》

パタンッ!

貴方は思わず本を閉じる。
そして…あの少女の方へと振り返った…

パラッ…  パラッ…



…少女は平然とページを捲り続けている…
圧倒的な真っ白と共に…

これを…あの子が読んでいるというのか…


《今付き合っている彼女は半年前から交際が始まりました。
 とても優しく真面目で、正直最高の彼女です。
 彼女には過去に他の男性と交際歴があるらしく、体の関係もある様です。正直ショックがない訳ではありませんでした。
 でも現代の恋愛事情からするとそういった事はある意味受け入れています。かく言う僕も何人かの女性とセックスしてきましたから。
 
 しかし…その行為の一つが…どうしても気になってしまって‥
 それは…口内射精…です。それも…飲む事も含んだ…

 それは…想像に超えていたのです。
 そういった行為がある事は知っていました。しかし、実際に彼女が…となると…
 キスをする時、舌を絡ませようとする時…僕は…思わず戻してしまいました。

 結婚も視野に入れていました。
 でも…どうしても…それからというもの…僕は…

 僕は…おかしいでしょうか?》

パタンッ!


…なんだこの本は…
男の生々しい独白が書かれている…

本音?… …男の…本音?…






△   …パラッ…  パラッ…






「? ああ…すいません…邪魔ですか?どきます。
 気づかなくてすいません…」

少女は貴方に漸く気づいたのか、本を閉じると立ち上がりその場から去ろうとした…

 
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