彼女と会ってまだ少ししか時間は経っていない。たった数分で彼女とのコミュニケーションが取れないと悲観するには早すぎる。何か…。何か方法は…。そんな時に彼女が初めて反応したもの。本が好き…。その言葉に自身の書庫を紹介すると言った言葉に彼女の閉ざされた心を少しだけ開けたような気がした。『なんて可愛い笑顔なんだ…。』目が消えてしまうほどに細くなる笑顔。自分を見つめて笑みを浮かべる彼女を心から可愛らしいと思った。心を閉ざし俯いていた時とは別人のような彼女の雰囲気に心が踊る…。書庫に案内して数多くの本を目の当たりにした彼女は、自由に使っていいと言う言葉に再びあの笑顔を浮かべた…。『この子の笑顔は素晴らしいな…。いつもこの笑顔を見ていたくなる…。』心が躍り自然と和らかな笑みを浮かべてしまう。「弥生ちゃんも…心が落ち着くんだね…。先生と一緒だ…。じゃあここは弥生ちゃんの居場所に決定だね…?ここの本は…自由に読んでもらって構わないからね…。」生気を失ったかのような彼女は途端に温かみを取り戻したかのように、まるで少女のようにはしゃぐ仕草も可愛らしいと思った。『こんなに明るい笑顔を見せる子だ…あいつもさぞ可愛がってるんだろうな…。』こんな娘が自分にも居たら…そんな想いがふっと過る。それと共に知り合いである父親に羨ましさのような感情まで湧き上がった。輝くような瞳で並んでいる本を見つめる。その横顔にはゾクッとするような美しさまで感じられた。「どの本…?」彼女が選び手にした本。哲学書…?それとも啓発本…?昔読んだ事は間違いないのだが、その内容は忘れ去られてしまったのか…。『何の本だったかな…。』ペラペラとページをめくる彼女の指先と、目に飛び込んでくる文字を交互に見つめながら…。『この子は…自分の居場所を見つけられなくて苦しんでいるのか…?』そんな想いが込み上げてきた。再び…ここへ来た時と同じ目に変わっていた。しかし、少し違っていたのは、ちゃんと目を合わせて話してくれること。糸のように細く弓のように弧を描く目…。どこか遠くを見つめているようで、何かを悟ったようなアンニュイな目…。同じ少女のものとは思えないほど対照的な視線を向けてくる。「難しい本を選んだね…。」そう話しながらアンニュイな目で見つめられたままのゾクッとするような力強さに気後れしてしまいそうになりながら…。「ゆっくりと読むといいよ…。本は自分が知らなかった事を教えてくれる…。自分だけではどうしょうもなかった事を解決してくれたりもする…。」心の中に芽生えた彼女を意識してしまう感情を見透かされまいと、教育者の表情を保ちながら…。「じゃあ…今日の課題は…その本を読むことにしよう…。好きなようにゆっくりと読めばいいから…。」そう言うと彼女から目を逸らし、自分の机に向かって仕事を始める。これからの方針。もちろん彼女だけではなく、ここで預かっている全ての子供達への接し方や教育方針を思案し始めた
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