山中深に佇む一軒の農家。見たところ煙草の葉の栽培農家であった。
水筒の水が乏しくなっていた折、水の補給をお願いしたくて、玄関前で声をかけてみた。
応答がない。農作業に出ているのであろうか。
私はクロスバイクでのロードサイクルを趣味として、全国の山々を巡っている。
申し訳ないと思ったが、勝手に敷地内を歩き回った。
敷地内の奥まった所に汲み上げ式ポンプが設置されてある井戸を見つけた。
一応、「水を頂きます」と声をかけて、手押しポンプで汲み上げた水を水筒に収めた。
そのまま其処から立ち去っていれば、今回のこの投稿には至らなかった。
井戸の並びに、古びた納屋があった。一見して作業小屋にも思えた。
好奇心から、つい足を踏み入れてしまった。そして覗いた納屋の内。
私の目は、ある一点のものに釘付けとなった。そしてその場に立ち竦んでしまった。
時間が止まったかのように、その場から動けずにいた私。
何が起こっているのか考えもおぼつかない。頭の中がぐるぐると回っていた。
ふいに、背後から声を掛けられて、驚きの余りに振り返った。
そこには六十絡みの初老のおばあさんが立っていた。
「驚いたかい、、でもアンタが心配するような事ではないので大丈夫だよ」
そう言って、笑みを浮かべてきたおばあさんであった。
「この子はね、こんな風にされるのが好きで、毎年この季節になるとわざわざこんな山奥までやって来るんだよ」
おばあさんが、この子と言ったのには、私が見てもそれなりに若い人であった。
今年で三年目を迎えるとの事であった。
つまり三年間もこのおばあさんのもとに通って来ていると言うものであった。
「急がない旅であれば、今夜一晩でも此処に泊まってゆけばどうだい」
おばあさんの言葉に一瞬、ドキリとした私であった。その表情を見たおばあさんは、軽い笑みをこぼして、
「心配しなくてもていいよ、、アンタをこんな風にしょうなんて思ってもいないから。
この子は自分から望んでこうしているんだからさ」
おばあさんの言葉に安堵した私は、その言葉に甘えることにした。
その青年は、全裸で手足を厳しく縛られて納屋の藁の上に転がされていた。
おまけに猿轡まで噛まされていた。口を割った白布が頬に強く食い込んでいた。
唇が真一文字に引き攣っている痛々しさであった。
この青年は、本当にこんな事を望んでいるのだろうか、、?
その為に態々、こんな人里離れた山奥にまで、、何故に、、?
答えはこの目で確かめるしかないと思った私であった。
一泊が二泊、三泊と延びていった。おばあさんも喜んで受け入れてくれた。
結局、私は20日間。青年は私より先に来ていたので凡そ30日間の滞在であった。
そして二人して山を下りた。来年また来る約束を携えて老婆に別れを告げたのであった。