2025/10/02 20:51:32
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数日後、放課後の教室で、クラスメイトの高橋真明が、ニヤニヤしながら奇妙な話を始めた。
「なあ。うちの学校にも学校の怪談ってあるんだぜ?」
真明は声をひそめ、興味を引きつけるように話を続ける。
「なんでも放課後のトイレから、『お姉ちゃん…お姉ちゃん…』とか言う声が聞こえてくるらしいんだってよ。しかも、殴られたとかも言ってたらしいから、姉に虐待されて自殺したやつの幽霊なんじゃないか?ハハッ」
真明は冗談めかして笑ったが、その話は瞬く間に教室に広がり、女子生徒たちは恐怖に怯えて小さな悲鳴を上げた。当然、真明の怪談話は先生の耳に入り、彼は叱られる羽目になった。
しかし、この話に刺激を受けた図書委員の戸村泰文と井出光晴が、探究心に燃えて話し始めた。
「よし、じゃあ俺たちで幽霊を探しに行こうぜ!」
「賛成!どこのトイレかわからないけど、とりあえず学校中のトイレ調べてみようぜ!」
彼らが興奮気味に立ち上がろうとしたその時、それまで静かに聞いていた隆介が、低い声でピシャリと言い放った。
「バカ。本当にいたらどうすんだよ」
いつものクールな表情のまま、真剣な眼差しでそう言われると、戸村と井出は顔を見合わせた。隆介が本気で言っている雰囲気に、彼らの幽霊探し熱は急速にしぼんでいった。
「……だよな。まあ、冗談半分ってことで……」
「そうだな。やめとこうぜ」
隆介の一言によって、危うく秘密が暴かれかねない状況は回避された。彼は再び静かに席に座り、胸の中で安堵の息をついた。自分の「稽古」が、まさか学校の怪談として広まるとは、夢にも思っていなかった。
◇
その日の放課後。黒瀬はいつものように部活に行こうとする。
部室の扉の前。「いつものこと」をしたいという欲望は強かったが、理性と恐怖心が勝り、トイレの方は振り向くのすらできなかった。
扉の前で少し悶々としていると、同じく部室に来た同級生の山下美加が話しかけてきた。「黒瀬君。どうかしたの?」
黒瀬は平静を装いつつ答えた。「どうかしたのって、何が?」
「なんか、疲れてない?」美加のその言葉に、黒瀬は怯えながらも「いや、なんでもないよ…」と答えた。
「そう。ならいいけど」そう言って、美加は自分の席に行った。
(しばらくは、「稽古」休んだ方が…よさそうだな…)