あたしが予備校の講師の大学生に誘われて、おいしいフレ
ンチをご馳走になり、伊勢丹でティファニーの香水を買っ
てもらい、バーでオレンジ色のカクテルを飲んで、まあ
お礼もかねて、歌舞伎町の奥のラブホに行き、どうでもい
いセックスをして出てきたとき、ラブホが並ぶその界隈で、
先生と遭遇しました。あたしは私服でしたが、いつもと同
じ髪型だったので、先生はすぐに、さすがに受け持ちのク
ラスの私に気づいたようでいっしゅん目をみはりました。
先生はカノジョらしい人を連れてました。

ミニスカにスパッツにモノコムサのスポーツバッグを抱え
てて、すごくラフでサバサバした雰囲気のお姉さんでした。
でもお化粧とかすごく上手だったんで、とてもカッコよか
ったです。先生のカノジョにヘンな疑いを抱かせたら悪い
とおもい、あたしは、目でちょっと笑いかけました。先生
も、目でちょっと笑いました。あたしは、先生のこの大胆
不敵な表情が好きでしたので、一緒にいた大学生にわざと
ギュッとしがみついて、先生を見ました。

翌朝学校で、先生に廊下で「進路調査票をなくしたのでも
う一枚ください」と伝えると、「きのうはどうも」と先生
は何食わぬ顔で言いました。あたしも「どうも」とお辞儀
しました。「かわいい人ですね。あたしチャラチャラした
寄生虫みたいな女、キライなんです。あんな人がカノジョ
なんて、いいな」「ありがとう。キミのほうこそ、犯罪は
ダメだよ」「ちゃんとしたデートですよ。私悪いことした
んでしょうか？指導されるような・・」「そうだなあ・・
・あんな挑発的な顔はしないで、はじらってうつむくくら
いが好みだなあ。あれはいけないね」先生はちょっと遠い
ところを見ながらムズカシイ顔をしました。先生との会話
はいつも好きです。うわべだけのなあなあの会話が多い教
室や予備校で、先生は、一番きもちのいい受け答えをして
くれるんです。「はじらってたらどうなんでしょう」あた
しはいたずらゴコロできいてみました。「嫉妬したかもね」
先生は苦笑いしました。その言葉をきっかけに、あたした
ちは大声で笑いました。廊下を歩いてた何人かがふりかえ
ったけど気にしないで笑いました。これはあたしたちだけ
の秘密です。それだけならまだいいのですが、もっとすご
い秘密を、放課後、つくることになりました。秘密が、秘密
をよんだんです・・・・

放課後、委員会のあと職員室に行きました。先生のところ
に行くのが、学校が、学校っぽくない時間のほうがきもち
よかったから、委員会のあとにしました。
あたしには下心があったのです。あたしは先生があのカノ
ジョとセックスをしたんだと思うと、とてもフシギな気持
ちになりました。「あたしもほしい」という気持ち・・・。
それが「恋」なのかどうかは、判りません。恋かどうか考
える余裕もなく、ただ「あたしもほしい」という気持ちが
どんどん脹らみました。授業中も委員会のあいだも、どん
どん脹らみました。
案の定委員会のあとは、すっかり生徒は少なくて、部活も
終わりはじめてる時間で、電気のついてない教室のほうが
多かったです。それでも職員室は賑やかでした。生徒は勝
手に入れないので、近くにいた音楽の講師に声をかけて、
先生を呼んでもらいました。「おそい」先生がびらびらと
進路調査票を持ってやって来ました。「委員会でした」
「ふーん」先生が面白そうに言って、あたし、服の下をみ
すかされたように感じて、うつむいてしまいました。あた
しは、恥ずかしいんですけど、すごく、濡れていたんです
が、それも、みすかれたように、感じました。
「ごめんからかっちゃった」先生がちいさい声で言って、
用紙をくれました。そのときあたしはすごいひょうじょう
で、先生を見たんだと思います。先生はちょっとびっくり
したようでしたが、すぐにいつもの顔に戻って「おいで」
と言ってあたしの横を通りすぎて廊下に出ました。あたし
は、あとをついていきました。

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