阿部裕子（仮名）先生は新卒の教師として、12年前私の高校へ赴任して来ま
した。　僕達（高二）の理科担当です。　美人とは言えないが、決してブス
ではなく「中の上」と言ったところ。　色白で気品があり、近寄りがたい感
じのする先生でした。　スタイルは抜群。
　　教育熱心で説明が上手、よく透る声で一生懸命教えてくれました。私は
理科系に進むと決めていたので、自分で言うのも何ですが、よく勉強しまし
た。　自分で大学入試問題集を買ってきて解いていました。　判らないとこ
ろは阿部先生に訊いて、教えて貰いました。　先生は嫌な顔一つせず「畑君
きっとこの大学に入れるよ、頑張って！」と励ましてくれたのを覚えていま
す。　でもその頃、先生と私個人的な付き合いは一切ありませんでした。
　　私が高二を修了した頃、何の前触れもなく、先生は高校を辞めていかれ
ました。　以来、消息不明。
　　私は高校を卒業し、運よく現役で希望大学に入れました。卒業しある
会社に採用され、忙しく働いていました。　先生と別れて12年目に入ってい
ました。
　　ある日電車の中で阿部先生によく似た女性を見かけました。見れば見る
ほどよく似ている。　思い切って声をかけてみました。　初め怪訝そうな顔
で私を見上げていましたが、「○○高校の畑弘」と言うと「ああー　畑君
覚えているよ、大きくなったね！」これが第一声でした。　先生は次の駅で
降りるので、殆どお話出来ませんでしたが、名刺交換は出来ました。
　　先生の姓は阿部のまま、恐らくまだ独身、博士号を持つ主任研究員でし
た。　次の日の夜、恐る恐る電話してみました。　先生は明るいお声で応答
してくれました。「一度会ってください」と懇願し、ＯＫして貰いました。
場所と時間を決めて、その日を待ちました。