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2007/09/17 03:55:07 (g1hqWRRV)
ぴんぽーんとドアチャイム。夜、8時。だれだろうとドア穴から見ると、ウ
チの制服を着たやつが一人。びっくりしてドアを開けると中等部3年の茜。

「どうしたこんな時間に」には答えず、するっと中へ入ってくる。
「えへへへ。あのね。先生のところでお泊り会なの」
「なにぃいいいい!?」

靴を脱いでさっさと中へ入っていく。後ろから
「いま何て言った」とおれ。間抜けな風景だ。

「だからね。今日は先生のところでお泊り会なの」
「それは聞いた」
「じゃあ何度も言わせないで」
「そうか」

なにがなんだかワケがわからんのである。
「お泊り<会>ってことは、あと他に誰が来るんだ」
「・・・だぁれも来ないよ・・・」

この「・・・」に、なにか後ろめたそうなものを感じる。
「おまえ、家でなんつって出てきた」
「先生のところでお泊り会なの、って。だから制服」
「制服はどうでもいい。誰と泊まるつったんだ」
「それは言わなかったの。言うとウソになるでしょ」

さすがに宗教系中高一貫教育だけある。たまにこういう、ぶっ飛んだ倫理観
を持ったヤツがいる。清廉なまま、ズレとる。

「家に連絡するぞ」携帯電話を取り出す。
「だめだめ。おねがい。だめ。」おれから携帯を取り上げる。手が痛い。も
のすごい力だ。
「だって、お前だけ泊められるわけ、ないだろ」
泣き出した。どーせえちゅうんだ。

生徒同士の「お泊り会」はしょっちゅうやってるとは聞いている。それで親
も心配してないんだろうか。でもおれのところに泊まると言ったと言った。
ならば状況がチガウのではないか?おれへの信頼はそこまで厚いのか。とい
うか、それは「信頼」か?考えれば考えるほどわけがわからん。


結局、好きなようにさせてやったのである。好きそうなビデオを見せ、ビー
ルもほんの一口だけ飲ませ、そうしたら大騒ぎして、そして疲れて、寝た。

おれはソファで寝た。なにもない。途中でコイツが「あ~ん」とか言って寝
返りを打ったとき目覚めてしまい、そのときふと悪い心が起きたのは確かだ
が、結局やっぱりおれも寝た。
翌日は昼過ぎまで遊んでやり、勉強も見てやり、駅まで行ってマックもご馳
走してやり、そして電車に乗せた。それだけだ。座席は空いているのに座ら
ず、閉まった扉の向こうからじっとこっちを見つめ、ちょっと微笑んで、小
さく小さく手を振りながら小さくなっていった。


実はこんなことは、ときどきあることなのだ。同じ経験を持つご同輩も多い
ことと、同情申し上げる。

この子はその後、教育系に進んで今では小学校の教師である。結婚もした。
おれは披露宴でお祝いのスピーチをさせていただいた。母親には何度も何度
も礼を言われた。あの母親はどこまで知っているのだろう。

考えてもしょうがないことが多すぎる毎日だ。
 
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