1
2007/09/17 04:37:31
(g1hqWRRV)
ある初夏の日、おれは夏風邪にやられて完全にダウンしていた。申し訳ない
が授業どころでない。そもそも起き上がれない。学校には休む旨、連絡をし
て、そしてちょっとほっとして、寝た。
昼ごろに目が覚めて、そして自分が汗べっとりになっていることに気づいて
着替えた。冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、そしてパソコンでメ
ールをチェックして、それが済んだらまた寝ようと思った。
着信リストを見てびっくりした。吉崎彩加、吉崎彩加、吉崎彩加、吉崎彩加
と連続して並んでいる。
内容を見てさらにびっくりした。要するに、おれが学校を欠勤していると知
って、学校を早退し、おれの看病に来ると言う。
「そう言えば先生、昨日ずっとしんどそうだったもんね」
「彩加がおいしいごはん、作ってあげるわ」
「あと二駅で着くわ」
「なにが食べたい?」
と延々と並んでいる。
はっきり言って、今日ほど来て欲しくない日はない。部屋じゅうめちゃくち
ゃである。こんなところに女子高生と二人でいるわけにはいかん。かと言っ
て片付けるぐらいなら死んだほうがマシだ。
どうも彩加はタイミング的にもうすぐ駅に着くであろう。決断が急がれる
(笑)。
おれは結局、こういうメールを返した。
「いま、駅のちかくまで食事に行こうと思っているから、南口で待ち合わせ
しようか」
彩加からは速攻で、うれしそうな返事が来た。
おれはふらふらになりながらも、それこそ歯を食いしばって駅まで歩いてい
った。5分ほどである。空模様が心配だったので、傘を2本用意して、出
た。
彩加は改札口の向こうのおれの姿をみつけて、ものすごくうれしそうに手を
振った。おれは病気だちゅうねん。おれはホントにいやそうに、手を振り返
した(笑)。
「そんな、イヤそうな顔、しないのっ」
「ごめんなー。ごはん食べに行こうか」
おれはレストランで適当にお茶を濁し、おれは栄養補給をして(笑)、彩加
にはご馳走してやって満足感をソコソコに与えて、それで帰してしまおうと
思ったのである。なんという名案だ。
ところが神はおれを見捨てた。
レストランへ向かう途中、まるで空が壊れたかのように真っ暗になり、豪雨
となったのである。初夏だ。傘も意味をなさず、彩加もおれも、レストラン
へ着いたころには、全身ずぶぬれだった。食事どころではない。そもそもこ
れで食事をしては、おれは死ぬ。
「彩加。先に家へ行って着替えよう」
「うん!」
シナリオは、おれの避けたいほうへ避けたいほうへと進んだ。豪雨の中で彩
加がいろいろ今日学校でなにがあったかを話しかけてくるが、完全に上の
空。
帰ったあと、どうするんだ?おれは熱いシャワーを浴びたい。とは言え、コ
イツも同じであろう。おれが先に浴びるわけにはいかん。。。。
結局おれは最後の気力を振り絞って、彩加を先にバスルームへ送った。ここ
に着替えをおいておいてやるからなと言ったものの、女の子の着れるような
ものがあるわけがない。とりあえず、短パンとTシャツ、そしてバスタオル
を置いておいてやった。
彩加がその格好で出てきて、こんな格好はイヤよーと言った。じゃあそこか
ら好きなものを出して着ろと言いのこして、おれはようやっとシャワーにあ
りついた。
出てきてみると、彩加はおれの休日用のワークシャツを着ていた。だぶだぶ
だった。下はジーンズ。
「おれのジーンズ、よく履けるな。ベルト、あった?」と訊くと
「ううん、ベルトはわからなかったから」と言って、シャツをたくしあげ
た。
ジーンズは端っこの余ったところをを、テーブルの上にあった大型のクリッ
プで端っこばっちんと挟み込んであった。かわいいヘソが見えて、そのかわ
いさと大型クリップの暴力的な力強さが隣り合っていて、ふらふらしていた
おれの脳裏に強烈に突き刺さってきた。心底、かわいくみえた。
結局おれは、彩加にほんとうに余りもので昼食をつくってもらい、それはお
かゆだったのだが、それを食べているうちに本当につらくなって、彩加ごめ
ん、おれ寝るわと言って、ベッドに入った。
寝入るときに、彩加の顔が近くにあるような気がしたが、気が遠くなってい
るのかどうか、よくわからない気がした。
起きるともう、とっぷりと暗かった。
テーブルに夕食がそろっていて、彩加の書置きがあった。
「ありがとう先生。明日も来ます。早くなおってね」
そして翌日、彩加の予告どおり、おれはやはり起き上がることもできず、そ
してまた彩加は来た。欠席するとなにかと問題になりそうだから、一時間目
だけ出席してきたと言った。
二日目は、彩加が音をたてないように、静かに掃除をしてくれた。おれはそ
の音を遠くのできごとのように聞きながら、眠った。
夕刻に起きるとまたテーブルの上に食事とメモがあった。
「先生、彩加のせいで風邪をひどくしてごめんなさい。明日は大丈夫そうだ
ね。いろいろごめんなさい。じゃあ明日!学校で!」
とあった。