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2025/09/28 10:59:13 (W.dqOLm5)
昔のことだが、鮮明に思い出せる。40年近く前の、あの夏の日の記憶だ。
俺は昔から、近所に住んでいたひとつ年上の秋山博子に憧れていた。クールな雰囲気に反して、時折見せる気の強さがたまらなく魅力的だった。同学年のサッカー部の先輩が、「お前、秋山のこと好きなのか?あいつ、イラつくと部屋に籠って枕殴ってるらしいぞ」と笑いながら教えてくれた。俺はマゾっ気があるから、そんな博子の裏の顔を知って、ゾクゾクした。「俺も殴られてえ…」と、マゾ全開の欲望が膨らむのを抑えられなかった。
同じ高校に進学した俺と博子さんは、それぞれの部活に励んでいた。俺は「エースをねらえ!」に憧れて、テニス部に入ったんだが、弱小でね…。特に夏休みは、仲の良かった望月達也と二人、自販機で買ったお茶を飲みながらだらだらと話していた。
俺たちはほぼ休憩みたいなものだったが、休憩の時間に他の部活の人が来て、時々話すんだ。中学の頃からの親友で、卓球部の山田雅敏と話すことが多かったな。
その日は、高木雅子先輩をはじめとしたバスケ部の人たちが来てた。雅子先輩が睨むように言った。「あんたたち。何サボってんのよ」。その声に、俺たちは肩をすくめるしかなかった。
雅子先輩は、まっすぐに俺たちを見据えていた。額には汗が光り、バスケで鍛えられたしなやかな筋肉がユニフォーム越しにもわかる。達也とは中学からの知り合いだという雅子先輩の迫力に、俺たちは静かになった。
「先輩も知ってるでしょうよ、うちの部活は大して強くないってことを」雅子先輩の中学校の頃からの知り合いだった達也が、そう言った。
「ったく、テニス部も落ちぶれたわね。新入生、みんなここのテニス部に染まっちゃって…。わたしが助っ人でこようか?」雅子先輩はフンと鼻を鳴らした。
そう言って、雅子先輩は隣にいた女子バスケ部の部員たちと、俺たちをからかうように笑い始めた。そのバスケ部員たちの中に、博子さんもいた。
「…博子…さん」
俺が思わずつぶやくと、博子さんは、すっと俺の横に座り込んだ。
「あなたたち、少しはまじめにやりなさいよ」
俺は、一瞬何を言われたかわからなかった。ただ、彼女が、俺の隣にいるという事実だけで、心臓が爆発しそうだった。
達也は、俺の様子を見てニヤニヤしている。
「おい、お前、顔真っ赤だぜ」
俺は何も言えなかった。ただ、隣にいる博子さんの横顔を見つめることしかできなかった。夏の暑い日差しの中、俺たちの周りだけ、時間がゆっくりと流れているようだった。
「…そんなこと言われても」
俺が呟くと、博子さんはこちらに顔を向けた。その、普段はクールな眼差しが、わずかに笑みを帯びているように見えた。
「何よ」その声は、いつもの気の強さを感じさせながらも、どこか楽しげだった。俺は、何も答えられずにただ見つめることしかできない。達也が、面白がって茶々を入れた。
「なんだよ秋山。お前、こいつのこと殴りに来たのか?」
博子さんは、達也を睨みつけた。
「殴ってやろうか」そう言って、ボクシングの構えをとった。博子さんは身長も割とあるし、ボクシングもかなり似合うと思った。
そう言うと、達也は「ひーっ」とわざとらしい悲鳴をあげて、逃げ出した。雅子先輩たちも、その様子を見て笑い声をあげていた。
俺と博子さんの間に、静寂が訪れる。蝉の声だけが、二人を包み込むように降り注いでいた。
「……何、ぼーっとしてるの」
博子さんは、俺のTシャツの襟首を、無造作に掴んだ。俺は、その熱を帯びた指先から、全身に電気が走ったような感覚を覚えた。
「ちゃんと練習しなさい」
そう言って、彼女は俺の襟首を放した。その横顔は、わずかに耳が赤くなっているように見えた。
「…博子さん…」
俺は、その背中に向かって、必死に声をかけた。
「……また、明日も、来るんですか?」
博子さんは、ゆっくりと振り返った。
「…さあね」
そう言うと、彼女は雅子先輩たちの元へ戻っていった。俺は、彼女の背中が遠ざかっていくのを、ただ見つめることしかできなかった。
あの夏の日。俺は、博子さんの「まじめにやりなさい」という言葉と、彼女の可愛くて、それでいてかっこいいところ。そしてわずかな赤面を、四十年経った今でも、鮮明に思い出せる。
 
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