2025/10/11 09:52:18
(zbMcXL/d)
「まさか、俺の『推し活』が学校の怪談になるとはな……」
ここまで話が広まってしまった以上、隆介はトイレの個室でいつもの「稽古」を行うことはできなくなった。
「何がいけなかったんだ…。声を上げるときはあったが、あれでも抑制してるつもりだったんだけどな…」
彼は静かにそう心の中で呟いた。トイレでの「稽古」は、杉山先輩への歪んだ愛とストレスを処理する唯一の手段だった。先輩に殴られたいという願望を込めて、個室で自分を殴る行為が、まさか「姉に虐待された幽霊」として学校の怪談になるとは、皮肉にもほどがある。
美術室近くのトイレ、あそこは少しではあるが、杉山先輩の部室が見えるという特別な場所だった。しかし、今や「お姉ちゃん…」と呻く幽霊が出没するスポットとして、生徒たちの間で噂になっている。いくら図太い隆介でも、好奇心旺盛なクラスメイトや、もしかしたら本当に幽霊を探しに来る生徒と鉢合わせるのは避けたかった。自分の秘密の儀式が白日の下に晒されるのは、クールな「野良犬系男子」のイメージに致命傷を与える。
「これからしばらくは、稽古のない生活だな…体がなまるな…」
そして、黒瀬は、重い足取りで美術室の扉を開けた。
黒瀬が所属する美術部は、実質、漫画部のようなものだった。放課後の部室には、キャンバスの匂いよりもインクの匂いが濃く漂い、デッサンよりもペン入れの音が響く。クールな顔で「野良犬系男子」と呼ばれる隆介は、この部室の一角で、いつも物憂げに、だが鋭い眼差しで紙に向かっていた。彼の描く絵は、一見すると風景や静物だが、その線の奥には常に杉山先輩の面影が潜んでいる。
しかし、今日の隆介は筆が進まない。数日前に校内に広まった「お姉ちゃんの怪談」が、彼の理性と、先輩への欲望を押し潰そうとしていた。
その時、美加が話しかけてきた。「あれ?黒瀬君、今日もう描かないの?」
隆介は無言で筆を置き、腕を組んだ。「集中できないだけだ」
「ふーん…そうなんだ」美加はそう言って、コミックの原稿を広げた。普段と変わらない部室の空気。しかし、隆介には、廊下の向こうにあるトイレの存在が、鉛のように重くのしかかっていた。
「あと1か月もしないうちに夏休みだからね。部活の時間は貴重だよ」向かいの席に座る荻原康子が、そう話しかけてきた。
「分かってるよ…」そう返事しつつも「今それどころじゃないんだよ…」と苦笑いする隆輔。
康子は続ける。「夏休みが終わったら、2週間もしないで文化祭だよね。文化祭で宣伝するのもあるからね。私たち大変よ」
そして、同じクラスの桐本敏夫は、一つ上の草島路花に絡まれていた。敏夫によると、路花とは同じ剣道道場に通っていたという。
(桐本…お前と草島先輩の絡み、エロい…。色々妄想が捗る…シコい…ダメだ…こんなこと考えちゃいけないのに…ああ…)
黒瀬隆介のオナニスト生活は、新たな局面を迎えようとしていた。